

バカで格好悪くて、根拠もなく自信満々。この本に出てくる、そんなどうしようもない高校生は、かつての自分の姿だったりする。だから彼らを憎めない、むしろ愛しく思ってしまうのかもしれない。吉川トリコさんの本領発揮、自信作に引き続き迫る。
「新宿伊勢丹で待ち合わせ」では、変わってしまった友人との再会が描かれています。誰もが「学校」という場所から卒業して社会に出ると、変わらざるを得ないですよね。吉川さんの場合はどうでしたか。
「それまで同じ学校という世界にいた子たちが、自分とは別の場所に新しい世界をつくっていくことに、がまんならない時期がありました。自分の知らないだれかと友だちになって、自分の知らないだれかと恋をして、自分の知らない世界で楽しくすごしている友人たちというのを、見たくなかった。しばらくして私にも新しい友だちができ、彼らに影響されて、着るものも、遊び方も、生活スタイルまで変わって、ようやくそこで、こういうことだったのか、と理解できた。
それでもやっぱり、自分のことは棚に上げて、あのころいっしょにすごした子たちにはなんにも変わらないままあそこにいてほしいと思ってしまいます。だって、彼らの変化を目の当たりにすると、自分も変わっていっているのだと思い知らされてしまうから」
でもきっと変わらないものもある。それは女の子なら「お洋服が大好き」「きらきらしたものに囲まれると幸せ」という部分だったりします。この物語の中での新宿伊勢丹のように、変わらない聖地、特別な場所は誰にでもあるのかもしれませんね。
「伊勢丹ってすごいんですよね。“伊勢丹”と口にするだけで、だれもが瞬時にあの新宿の伊勢丹を思い浮かべて“女の子の夢の場所だよね”“日本一のデパート”みたいなことを口にする。“伊勢丹に行って泣きそうになった”と言えば、具体的にどんなものを見て、どんなふうに感じて泣きそうになったのか説明しなくてもわかってもらえる。わかってもらえるというそのことに感動して泣きそうになってしまうぐらい。すごい共通語だと思います。
おそらく私は、そういった共通するなにかを持ちたいんだろうなあと思います。それこそ大好きな友だちとおそろいのものを持ちたいという感覚に近いのかもしれない。学校を卒業してから、誰かと何かを共有するということがなくなってしまっているからこそ余計に、私は伊勢丹にすがりついているのかもしれません」
今、現役で「あの頃」を過ごしている高校生や大学生に伝えたいことはありますか。
「先日、小説の取材である大学におじゃましたのですが、キャンパスには青春の光がみちみちていて、まぶしいぐらいでした。ああ、いまを大切にするんだよ、かけがえのない時間だよ、と通り過ぎる学生さんたちに心の中で語りかけていたのだけど、渦中にいる彼らには、言ってもたぶんわからないことだと思うんです。もし私がその渦中にいて、見知らぬおばさんに“若いっていいわねえ”などといわれても、“なんだこいつ、きもー、うぜー”と思うだろうし。それでも、あなたたちがいま生きている時間はかけがえのないものなのだと、言わずにはおれない。直接言ったら煙たがられるだけなので、小説にしてみました。読んでみてください。小説で読んでも“なんか説教くせえな”と煙たがられてしまったら、もうしょうがないですね(笑)」
では、「あの頃」を卒業した大人たちへもお願いします。
「私は思春期の少年少女を描いた作品が大好きなんです。小説でも漫画でも映画でもなんでも。永久保存できない思春期の時間や感情がたくさん詰まっていればいるほど、胸をかきむしられるぐらい切なくなってしまう。ほんとにあのころってかけがえのない時間だったんだなあと。永久保存できないからこそ、それを作品の中に保存しておこうと、私もこの小説を書きました。あのころのままなんにも変わっていない自分の姿を物語の中で探してみたり、“こんなときもあったなあ”と懐かしんでみたり、自由に読んでいただければと思います」
撮影/平木千尋
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