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Christmas Special
聖夜のショート・ストーリー
としま・みほ
1982年生まれ。2002年「青空チェリー」で第1回「女による女のためのR-18文学賞」読者賞を受賞し、書き下ろし2作を加えた同名単行本でデビュー。著書に『日傘のお兄さん』『ブルースノウ・ワルツ』『檸檬のころ』がある。来年4月、小社より短編集を刊行予定。
石田衣良 『プロポーズ・イン・ザ・スカイ』
豊島ミホ 『世界が終わる日』
永井するみ 『ウィークエンドの約束』
中島京子 『声 Tokyo. in 2005』
三崎亜記 『赤鼻の彼女』
photo: ©CORBIS JAPAN
世界が終わる日 豊島ミホ
 今日はXデーだ。
  12月24日、世界は終わる。終わるに決まってる。だって、私が「彼氏とふたりのクリスマス」を迎える日なのだから。
「今頃日本中でカップルがめーいっぱい自分らに酔いながらエロい事してんだぜ!」「キショーい!」と笑い合いながら友だちとふたりでシャンメリーを開けたのは、ひとり暮らし1年目のクリスマス。テレビをうっかりつけたりしないように主電源から切り、コンポには電気グルーヴのCDを入れてリピートしながらおこたでスキヤキをした。酔っぱらいばりに騒いで、気付いたら大の字で寝ていた。
  2年目はさっそくひとりになった。去年一緒にクリスマスをやったショーコは普通に彼氏ができていた。日付が25日に変わる頃、「おい、今エロい事してるだろ」とショーコの携帯にメールしようと思ったけど、やめた。そこまでして友だちをなくすことはあるまいと思った。
  3年目と4年目は大学の図書館に行って勉強してみた。24日も図書館は夜の9時まで開いており、いつも通り、脇目もふらず机に向かう人たちがたくさんいた。ひとりじゃないよねピイイイス! と心の中で勝手にみなさんを同志扱い。これは気分が良かった。私はスネかじりでモラトリアムな学生とは違いますから、みたいな優越感もオマケについた。
  5年目は23歳。学校の傍に住んでいた前年までとは違い、会社の行き帰りに「街のクリスマス」をさんざん見せつけられた。ひと月半以上も前から、中吊り広告だのデパートのディスプレイだのイルミネーションだの見せられてうんざりした。うんざりしたので、「クリスマス撲滅ブログ」を立ち上げてみた。11月24日から1ヶ月間限定で、クリスマスへの悪口や、カップルへのイヤガラセアイディアなどを書きまくる。2年前、ショーコにメールしようと思ったことも書いた。そしたらそれがショーコの目に入り、「そんなに本気でヒネた子だと思わなかった」というメールが来た。私は結果的に友だちをひとりなくした。しかし、モテない女子たちの支持を集め、クリスマス本番にはちょっとしたネット上の「神」になった。24日の夜、ひとりでパソコンに向かって最後の記事を書いていたら、急に涙が出た。ちょっと疲れ目かしら、と思ったんだけれどだくだくと垂れてきて最後には号泣になってしまった。
  なので次の年――つまり去年のクリスマスは、早めの冬休みを取って実家で過ごした。家族みんなでケーキを食べた。おばあちゃんが、おじいちゃんの位牌にケーキをひとかけおそなえしたのがツボに入って家族で爆笑した。これからはずっと「実家でほのぼのクリスマス」にしなくては、と心に誓った。
  ずっとやりきれなかった。年に1度、自分の孤独度を量る行事がクリスマスなんだとしか思えない。あたたかそうに身をよせて歩くカップルたちに対して「資本主義の犬が!」と唾を吐きかけたくなるたび、自分の汚さやみじめさや淋しさを思い、顔が熱くなる。こんなあたしは一生ひとりでクリスマスを迎えるしかないんだ、と呆然とした。
  でも今年は違う。じゃあ24日の6時に駅前でね、と約束した彼氏がいる。
  Xデーだ、と思う。こんなことはありえない。きっと東京直下型地震が起こるに違いない。そうじゃなきゃ宇宙戦争がいきなり勃発するか。あるいはこの雨が異常気象の前兆で、東京が突如海に沈むか。
  時計の針がまもなく6時を指す。改札を出たところに、緑色の傘が見える。少し傾けたその傘の下で、彼が私を見つけて笑った。白い息が飛んだ。それだけだった。
  世界は終わらない。「メリークリスマス、なーんつって俺キショッ」と彼がつぶやく。「きもーい!」と返しながらも私は、頬が持ち上がるのを抑えきれない。彼の手を取ろうと近寄ったら、傘がぶつかってトンと鳴った。
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