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Christmas Special
聖夜のショート・ストーリー
みさき・あき
1970年福岡県生まれ。熊本大学文学部史学科卒。2004年「となり町戦争」で第17回小説すばる新人賞を受賞。同作は翌年単行本化されてベストセラーに。11月25日、注目の第2作『バスジャック』を小社より刊行。
集英社刊の著作一覧はこちら

三崎亜記 最新短編集「バスジャック」
s-woman.netスペシャルインタビューはこちら
石田衣良 『プロポーズ・イン・ザ・スカイ』
豊島ミホ 『世界が終わる日』
永井するみ 『ウィークエンドの約束』
中島京子 『声 Tokyo. in 2005』
三崎亜記 『赤鼻の彼女』
photo: ©CORBIS JAPAN
赤鼻の彼女 三崎亜記
 サンタは絶滅していなかった。
 そのニュースは、夕方六時半のテレビから流れてきた。土曜日の夜はいつもそうしているように、僕は十歳年下の彼女の部屋にいた。
 食事当番だった僕は、フライパンを手にしたまま、テレビの前に座り込んだ。ニュースキャスターは、北欧の奥地に今も生息するサンタの撮影に成功したと告げた。粒子の粗い画像で、吹雪の中に一瞬だけサンタらしき赤い姿が映し出された。
 彼女は画面にちらりと眼をやった後、エプロンをつけたまま座り込む僕を不思議そうに見ていた。その表情を見て、僕ははっとする。
― 彼女は、サンタを知らないんだ ―
 まさかこんなことで、彼女との十歳の歳の差を感じるとは思ってもいなかった。だが無理もない。最後のサンタが死亡したと報道されたのは、僕が十二歳の頃だ。その当時でさえ、世界の子どもに対するサンタの絶対数が足りない状況はすでに恒常化していて、僕自身も本物のサンタからプレゼントをもらった経験は無かったのだから。
 サンタの絶滅とともに、「クリスマスを祝う」という風習はなくなり、今では十二月二十四日は、単なる慌しい師走の一日でしかなくなっていた。彼女には、クリスマスというものは「昔の風習」という認識しかないのだろう。
 歳の差があるとはいえ、今まで二人とも、あまりそのことを気にせずにやってきた。だけど、彼女の中には、クリスマスを迎える高揚した気持ちや、プレゼントを楽しみにしながら眠りについた記憶は無いのだ。そう思うと少し悲しくなった。クリスマスを、彼女とは共有できないんだ……。それは歳の差以上に大きな隔たりに感じられた。
 あくる土曜日の夜、いつものように彼女の部屋をノックする。出迎えた彼女は、真っ赤なワンピースに、赤い三角帽。鼻の頭まで、口紅で赤く塗っていた。あっけにとられた僕は、それではじめて今日がクリスマスイブだってことを思い出した。
 呆然とする僕が何か言う暇も与えず、彼女は背中を押して、部屋へと導く。
「クリスマスおめでとう」と書かれた横断幕。窓際には、僕の胸までもある鉢植えのゴールドクレスト。そこには折り紙で作ったお星様や天の川が飾られていた。何だかクリスマスと七夕を混同しているみたいだったけど、彼女なりの努力の跡はうかがえた。
「これは、どうしたんだい?」
 驚きながらも、笑顔で赤鼻の彼女をみつめる。それはサンタじゃなくてトナカイなんだけどな……。
「ごめんね。経験ないから、あなたの知ってるクリスマスとは違うかも知れないけど」
 そう言って、恥ずかしげにあたりを見廻し、照れたような笑みを浮かべる。彼女は、あのサンタのニュースが流れた時の僕の様子を見逃さなかったのだ。それで、自分なりに調べてクリスマスを僕と共に祝おうと思ったのだろう。そんな風に思ってくれた彼女に、心から愛しさを感じた。
 十年という生きてきた時間の差で生じる「違い」。それは、これからも不意打ちのように僕たちを襲うんだろう。だけどこれからも、その違いを楽しみながらやっていけるんだろうな。そんな気にさせられた。僕は彼女の赤鼻に、そっと口付けた。
 クラッカーを手にした彼女は、紐を引っ張ろうとして手をとめ、首をかしげて僕にたずねた。
「ねえ、こんなときに言う掛け声みたいなものはないの?」
 僕は、まかせてください、というように胸に手を当てうなずいた。一緒にクラッカーを持って、彼女に「その言葉」を耳打ちした。了解、と小さく頷く彼女。
「せぇの」
 二人で、紐を引っ張る。強く。
「メリー、クリスマス!」
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