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Christmas Special
聖夜のショート・ストーリー
いしだ・いら
1960年東京生まれ。成蹊大学卒業。97年「池袋ウエストゲートパーク」でオール讀物推理小説新人賞受賞。98年同名の連作小説でデビュー。03年「4TEEN」で直木賞受賞。著作に「アキハバラ@DEEP」「約束」「東京DOLL」。
集英社刊の著作一覧はこちら
石田衣良 『プロポーズ・イン・ザ・スカイ』
豊島ミホ 『世界が終わる日』
永井するみ 『ウィークエンドの約束』
中島京子 『声 Tokyo. in 2005』
三崎亜記 『赤鼻の彼女』
photo: ©CORBIS JAPAN
プロポーズ・イン・ザ・スカイ 石田衣良
「急に呼びだすから、なにかと思ったよ」
「ちょっとびっくりした?」
「いいや、それほどでもないけど。それより、今夜はずいぶん決めてるじゃないか。それ、このまえ買った新しいスーツだよね。マックス・マーラだったっけ」
「うん。今夜は大事な話があるから。ちゃんとしてきたの」
「なんだか、怖いな。このレストランもね。四十二階の高さから見ると、渋谷の街もきれいなものだ」
「最後のクリスマスになるかもしれないから、いいお店にしようと思って」
「……最後のクリスマスって」
「ふたりで会うのは、これで最後になるかもしれないっていう意味」
「なんだよ、急に」
「急じゃないよ。わたしはあなたのご両親にも会っているし、友達だって知ってる。でも、そろそろ中途半端な形はやめにしないといけない。わかってると思うけど、わたしは今度の春で三十歳になるんだ」
「ああ、そのことか」
「そう。このまえ女性誌を見たんだ。三十代前半の女性の未婚率は二十二パーセントで、二十年間で三倍になっている。グラフでは三十五歳をすぎると、未婚率の線は固まったように動かなくなる。わたしはひとりの人間で、統計の数字のひとつではないと思うけど、あなたが結婚したくない人なら、やっぱり考えなくちゃいけない」
「誰が結婚したくないっていったんだ」
「まえからいってるじゃない。おたがい独身のほうが、自由でいいって。お財布もふたつ、生活も気楽。今では結婚にメリットなんかない。だから、みんな結婚しないんだって」
「ああ、あれは話の流れでそうなっただけ。きみとぼくのことじゃないんだよ」
「だけど、あなたも来年には三十五歳になるよね。このまえ昇進もしたし」
「そうだな。同じ年代の男性の未婚率は四十三パーセント。男は確かに結婚を恐れているみたいだ」
「だから、今夜ははっきりしてもらおうと思ってきたの。当分したくないないなら、そういってくれればいいんだ。そうしたら……」
「そうしたら、なに」
「しかたないから、別な人を探す。あなたはいい人だし、まじめに仕事もしてるし、女の人を型にはめない自由さがあって、素敵だと思うけど、タイミングがあわなければしかたないもの」
「だから、いつタイミングがあわないっていったの。ぼくのほうもちょうどいい機会だと思っていた。もう同僚の結婚式で、ご祝儀をとられるばかりでうんざりしていたんだ。いつかしっかりとり返してやろうってね。ちょっと待って」
「なあに、その箱」
「いいから開けてごらん。サイズはあとで直してくれるから」
「……指輪、なによ、これ」
「気にいらないの。婚約指輪を見て、怒ることないじゃないか」
「こんなものくれるなら、どうして先にいってくれないの。わたし、今日が最後のつもりで一時間半もメイクにかけたんだから」
「いったらサプライズがなくなるだろう」
「だからって、こんなタイミングでだすなんて。あなたって、いつもずるいよ」
「わかった。わかったから、泣かないで。ほらウエイターがちらちらこっちを見てるじゃないか」
「いいよ。別れの涙じゃなくて、うれし涙だもん」
「そんなに化粧が崩れたら、帰りがたいへんだな。どう、したのスイートでもとろうか」
「いいけど。でも、その手をほかの女の子には絶対つかったダメだからね」
「はいはい、わかりました」
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