
── まずはじめに、今回のメインテーマはいつごろ、どのように作曲したのか教えてください。
「脚本を受け取ったのは昨年の10月ごろですが、脚本を読んでいたら、すぐできちゃったんです」
── できちゃった?
「はい(笑)。自分のなかに、すごい勢いで旋律が流れてきたので…。映画の舞台になっているオリヲン座という映画館は、主人公のトヨさんにとってはずっと守っていきたい場所であり、離婚を考えている三好夫妻にとっては忘れていた気持ちを思い出す場所で…。そんな、映画館をめぐる人と人との思いやりや優しさが強く感じられて、ここはいろんな人にとっての“居場所(=Place to be・メインテーマのタイトル)”なんだな、と思ったんです。この物語が伝えたい“気持ち”が、脚本を通して私にもダイレクトに伝わったんでしょうね。だから“作る”というよりは、ストーリーに導かれるようにして音が生まれた、という感じです」
── ご自身で演奏もなさっているそうですが、トヨ役の宮沢りえさんが自転車を漕ぐシーンに、上原さんの演奏がぴったりマッチしていてとても感動的でした。録音する前に、映画をご覧になったんですか?

「いいえ! あのシーンはすごくびっくりしました。宮沢さんの感情の移り変わりと曲の抑揚がバッチリ合っていて、自分で言うのも何ですけれど、まさにミラクルだと思っています(笑)。それに、宮沢さんの演技が本当に素敵なんですよね! 音楽を聴きながら自転車漕いでくれているみたい。旦那さまが亡くなって途方に暮れていたのに、だんだん“頑張ろう!”っていう気持ちになって早く漕ぎ出すところにちょうど、私が“希望”をイメージして作ったパートが重なっていて、とってもうれしかったです」
── ところで、この映画の中で上原さんが“ここに注目して欲しいな”と思う、オススメのシーンはありますか?
「実は、自分のアルバムを紹介する時もそうなんですけれど“見どころ”とか“聴きどころ”というお話をするのが好きじゃないんです。ニュートラルな気持ちで作品に触れていただきたいし、人それぞれ、気持ちが動くポイントって絶対違うと思うので。
だから“ここが見どころ!”というのは分かりませんが、私自身、いちばん印象に残っているのは、トヨさんの旦那さまの松蔵さんが鰹節を削るところです。あのシーンが、本当に忘れられなくて…。松蔵さんを演じる宇崎竜童さんが、最初はシャッ! シャッ! って軽快に削っていたのに、亡くなる直前はだんだん削る気力と体力がなくなってきて、音が変わってくるんです。観ていて切なくて、たまらなくなりました。
ほかにも、松蔵さんが眺めていたタチアオイの花が、亡くなった後には庭から消えていたり…。そういうシーンって、次の日に道を歩いていてふと、デジャヴのように思い出してしまいます。それで、あらためて感動がじんわり押し寄せてきたりして…。ヴィジュアル以上の“何か”を人の心に残せる映画の力って、本当に素晴らしいですよね」