
お父さんと、そよが憧れる都会からの転入生・大沢(岡田将生)の母・美都子(大内まり)の間には、過去に何かあったらしい……というストーリーでは、その関係性について山下監督と細かい設定まで話し合っていたおふたり。丁寧な役づくりが、物語を支えています。
――完成した作品をご覧になって、いかがでしたか?
佐藤 良かったですよ。やっぱり、ラストは自分の中でもドキッとするものがありました。基本的に僕は後味が悪い映画のほうが好きで、こういう作品はなかなか見ないんだけれども。後味のいい映画でしたね。
夏川 試写を見た後、スタッフのどなたかが「子供たちがメインの作品のわりには、どっしりした作品だ」と表現されてたんですが、その通りだと思いました。上滑りせずに、押さえるところはしっかり押さえてるんです。そよが中学時代の1年間で、ひとつ大人になるというのを心の変化でしっかり見せているし、監督は子供たちのことをしっかり見てたんですね。最後の教室のシーンは、そよが教室や学校という空間をすごく愛してるのが表現されていて、おもしろいです。そよが過ごした時間の良さとして捉えられてて、上手くできてるなと思いました。……違う?
佐藤 正しいと思いますよ。僕は自分が出ているところで好きなのは、メシを食った後、テレビで高校球児の予選のインタビューを、足を投げ出して見てる奥で、奥さんたちが「昔の彼女が帰ってきたらしいね」って話をしてるシーンがあるんですよ。彼女たちが何の話をしてるかも知らずに、ぼけっとテレビを見てる顔が好きですね。“そういう野面(のづら)さ加減だよな、男って”っていうのが、出てると思います。
――佐藤さんの衣装は、作業着や帽子などにもかなりこだわられたそうですね。そよとお母さんが、初めて学生服を着た弟・浩太朗と入学式に出かけるのを縁側で見送るシーンでは、“あの佐藤浩市が、パジャマのズボンの中に手入れちゃうんだ!”というような新鮮な驚きがありました。
夏川 うちのお父さんは、やってましたね(笑)。
佐藤 そういう日常にある風景が、ちゃんと映画の中で点描されてるっていうことじゃないですかね。山下監督には、そこらへんの目線の温かさがあるんでしょうね。
――あのポーズは、監督からのリクエストだったんですか?
佐藤 座りにするか、立ちにするか話し合って、男ふたりは立ってることに決めたんです。で、吹き出すおかしさじゃなく、浩太朗を見てニヤニヤしてる僕らを、見ているお客さんが二ヤッとするような。そんな空気感の中で、幸せを感じてくれそうなポーズはどれだろう?って、監督とお互いに探り合った結果、ああいう形になりました。
――ところで、お母さんは、旦那の浮気(?)を見逃していたんでしょうか?
夏川 お母さんに関しては、「私には、父ちゃんの愛は重すぎるけぇ」っていうセリフを、もっとみんなの笑いを誘う言い方をしたほうがいいのか、笑いを誘わない微妙な感じで言うのがいいのか、監督と相談したんです。監督は「意味が発生しちゃうから、笑いを誘わないでください」って言ったんですね。私としては、みんなの笑いをとればお母さんのキャラクターが見えるから、演じるうえでちょっと助かるんだけど、それを拒絶されたときに、“この監督はおもしろいな”って思いました。
お母さんの中では、お父さんのことは許してあげてるんだけど、でもみんなに見られてないところ、たとえば立ち上がる瞬間のしぐさがちょっと乱暴になったりとか、不満は小出しにしてたんですけどね。
佐藤 「お母ちゃんは、お父ちゃんと美都子さんの関係をどこまで知ってるのか?」って、監督と3人で、いろいろ話したんだよね。
夏川 その設定は、映画の中では出てこないんですけど、私自身は“お母さんはどこまで知ってるのか”を知ったうえで演じたかったので、監督といろいろ話しました。実は知ってるのに何も知らないふりをしてるのか、何も知らないのか。そういうことって大事ですよね。
佐藤 狭い村なので、噂話は耳に入ってるだろう、と。ただ僕(お父さん)と彼女(美都子)が付き合っていたのは、東京に出てからの学生時代の話なんですよ。
夏川 結局、“噂は聞いてるけど、東京でのことはよくわからない”ってことになりました。
――お父さんが美都子さんと寄り添ってるときに、ふたりがどんな会話をしてたのか? というのは、何か設定があったんですか?
佐藤 あれは、現実なのか現実じゃないのか、一瞬の出来事の中で、見る側がどう捉えるかの問題で、あくまでイメージショットなんです。監督とは「肩に手を置いて“体のほうは大丈夫なのか?”って話をしてたのかもしれない、ってことでいいよね?」って話をしました。
夏川 まあ撮影中は、いろいろおやりになってましたけどね?
佐藤 大変だったんだよ、本当に。
夏川 私と夏帆ちゃんは、毎回びっくりしながらお芝居してましたよ。
佐藤 同じポーズだと夏帆ちゃんが慣れちゃうから、毎回ポーズを変えてたんですよ。夏帆ちゃんが本番の中でどういう新鮮なリアクションするかってところが大事なので、田舎で情報量が少ないところで育った子が、お父さんと友達のお母さんが一緒にいるという状況を見たときに、どういう顔をするか? 夏帆ちゃんに“鳩が豆鉄砲をくらったときみたいな顔をさせる”には、どうしたらいいか考えて、こちらは毎回変えてたんです。
夏川 お父さんのほうを見た夏帆ちゃんが、固まるのがわかるんですよ。“これはとても効果的なんだ”と知りつつ、私はそれを見ながら“いいなあ。おもしろそうだなあ”って思ってました。それに“夏帆ちゃんは幸せだなあ”と思いましたね。私はチラッとしか見られないんですけど、スタッフから「元の位置に戻ってください」って言われるたびに、夏帆ちゃんが「(小声で)見ました? 見ました? こんなのしてましたよ〜?」って私に言うんですよ。かわいいねえ〜 。
佐藤 でも、本人は嫌がってましたよ。「お父ちゃん、不潔!」って(笑)。
――普段、おふたりが出演なさる作品は、主役クラスの役がほとんどかと思いますが、『天然コケッコー』では、いわば脇役ですよね。今回、この作品への出演を引き受けられたいちばんの理由というのは、何だったんでしょうか。
佐藤 “山下っていうおもしろい若い監督がいて、彼が今度こういう映画を撮るから参加してみないか?”ってことです。僕は、ポジションがどうっていうところで生きてるわけじゃないので、本能的な嗅覚の中に“おもしろいにおいのする物には、参加しておかないといかんな”って気持ちがあるんです。それだけですよ。それに“実際にやってみたら、思ったよりおもしろいぞ”みたいな手応えがなかったら、こんなにしゃべらないですよ(笑)。
夏川 私も同じで、1年前に「おもしろい監督がいる」って聞いていましたし、映画『リンダ リンダ リンダ』を見て、おもしろい作品を撮ってらっしゃるのは知ってました。これは参加してみないとわからないし、山下監督の作品に出演できる機会が、この先どれくらいあるかわからない。それに山下さんがどんな演出をするのか見てみたかったんです。
佐藤 でも、ロケ地に着いたときには“うわー、すごいとこ来ちゃったなあ”って。
夏川 正直、びっくりしましたね。
佐藤 空港から2時間ぐらい? あのときだけは、ちょっと後悔しました(笑)。
夏川 空港から遠いし東京からも遠いし、撮影が2、3日空いても1回東京に帰っちゃうと大変なんです。なので、撮影がお休みの日は、地元の方との交流を……。
佐藤 あなた、普通に地元の居酒屋のおばさんと温泉行ってたからね! すごい女優だなあと思いましたよ(笑)。
夏川 あははは。温泉に連れて行ってもらったり、釣りに行ったりして、その人の言葉を耳で聞いて、方言を覚えたんです。それをその居酒屋でごはんを食べてるときに言ってみると、「ここはこうでね」って直してもらったりして。映画には全然生かされてませんでしたけどね(笑)。
――撮影の中で印象に残ってる風景があったら、教えてください。
佐藤 僕は、よく空を見るので、夕方になるとぐぁ〜っと、うろこ雲っていうかイワシ雲がやたら出るんですよ。で、それをよくケータイで撮ってましたね。空が近いんだよね。
夏川 景色というより、撮影のジャマにならないように動いている監督が、すでにジャマになっていたんですよ。それでも、“俺はここにいませんよ”って素振りの監督がいる撮影現場というのが、一番思い出に残っている風景ですね(笑)。
撮影/細川葉子
佐藤浩市:スタイリスト/喜多尾祥之 ヘア&メイク/山岡妙子(六本木美容室)
夏川結衣:スタイリスト/えなみ眞理子 ヘア&メイク/勇見勝彦
取材・文/都丸優子
©2007「天然コケッコー」製作委員会
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