
映画化に向けて、また実際の撮影現場で、奔走するスタッフの様子を興味深く観察されていたくらもち先生。撮影現場は驚きの連続だったようです。出演者の方やスタッフとのエピソードから、作品にも存分に描かれている、くらもち先生の温かいお人柄が伝わってきます。
――実際、撮影は島根で行なわれましたが、ロケ地に関してはどんな印象でしたか?
撮影現場は、私が知ってる島根とは全然違ったんですよ。でも“これも島根なんだ! むしろ、よくぞこういう場所を見せてくれた!!”と思いました。島根県というパズルを作っている中で、パズルのピースが1個増えた、って感覚でしたね。私の親世代の人たちが、この映画を見てどういう反応をするのか、傍で見てみたいですね。
――映画の撮影現場の雰囲気は、いかがでしたか?
まずセットが、想像の範疇を越えてる! メイキング映像とかで、見たことあるつもりだったんですけど、ここまで作りこむとは思ってませんでしたね。たとえば、桜の木の花をひとつひとつ付けてたりするんですよ。“そこまでするのか!”って驚きました。
――くらもち先生も、何度か撮影現場に足を運ばれたんですよね。出演者の方とは、どんなお話をなさったんですか?
撮影現場にいると、空き時間に何気なくひとりずつ寄ってくるんですよ。“なんだろう?”と思ってると、みーんな同じ質問(笑)。夏帆さんから「そよって、どんな子ですか?」と聞かれて、“どんな子? ひとことでは言えないな?”って考えましたね。夏帆さんの場合は、「あまり、そよに似せようとしないでほしい。イメージはピッタリ合ってるから、思い切ってやってくれたほうがいいと思う」とお伝えしたと思います。岡田くんに関しては、大沢とは真逆の性格で、演技に関して相当しごかれてるって話を、事前に聞いてたんです。実際に会ってみたら“ゴロニャン猫”のように人懐っこくて、本当にいい子でした(笑)。彼は映画で今回のような大きな役は、初体験ですよね。まだ右も左もわからない状態であろう彼には、いろいろ言わないほうがいいだろうから、どういうポーズをとれば、より大沢らしく見えるか伝えよう、と考えました。「面倒くさがりで、だるそうな感じにしてください」って言いましたね。「たとえば、アゴをちょっと上げると、だるそうに見えるよ」って。
――そよのお父さん役を演じた佐藤浩市さんの印象は?
私と真っ先に会話した内容が、子供たちのことだったんですよ。「この映画に関しては大人ではなく、子供が輝いてる部分が撮れたら、いちばんいいと思う」とおっしゃっていて、真摯というか、語られる内容がとっても熱い! 私の中の佐藤さんは、背広を着てカッコよく車を運転してるイメージがあったんですよね。それが今回は作業着を着せられて、“こんな佐藤浩市、人様にお見せしていいんだろうか?”って(笑)。あんな格好をさせられるとわかっていて出演をOKしてくれたのかと思うと、申し訳ない気持ちでいっぱいでした。
――佐藤さんご自身が、作業着や帽子など衣装にも相当こだわってらしたそうですね。
そうなんですよ。それから、もっと申し訳ないと思ったのが、斉藤(暁)さんにカツラをかぶっていただいたこと! ごめんなさいっ!!(笑) 申し訳なくて、近寄れなかったです……。斉藤さんに初めてお会いしたときに、「笑い方はどんな感じですか?」って聞かれたんですね。というのも、斉藤さんが演じた篤子のお父さんは、独特な笑い方をするんです。私も実際声に出してみたことはないですけど、自分の中でのイメージはあるわけですよ。斉藤さんが「こんな感じかなあ」って最初にやってみてくださったのが、私が思い描いてたのと、どんぴしゃだったんです! 不思議というか、さすがだなあと思いました。“ああ、みなさん、一生懸命やってくださってる!”ってすごくうれしいんですけど、“カツラ姿はごめんなさい!”って気持ちでした。
――あはは。そよのお母さん役を演じた夏川結衣さんの印象は、いかがでしたか?
最初はあまりお話しする機会がなかったんですが、実は、家族ぐるみで夏川さんが出演していたドラマ『結婚できない男』がすごく好きだったんです。彼女とは、こういう機会でもないと一生お会いできないと思っていたので、どうしてもお伝えしたくて(笑)。お昼休憩のときだったかな。たまたまスレ違ったときにそのお話をしたら、それ以来、よくお話しできるようになって! 「そよママのキャラクターは、どんな感じですか?」と質問されたので、「大和撫子のようですが、芯の強い女性です。大沢の母も強そうに見えますけど、内面的に強いのは右田母です」とお伝えしたら、「わかりました!」と言ってました。あと、子供たちとよく遊んでいたのが印象的でしたね。
――強烈なインパクトを残すシゲちゃん(廣末哲万/ヒロスエヒロマサ)のキャスティングは、最後までモメたそうですよ。
私も見終わってしばらくは、目を閉じてもシゲちゃんの顔が浮かんでくるくらい(笑)。これは廣末さんご本人にもお伝えしたんですけど、シゲに関しては、彼がしゃべってるだけで、ものすごく“G”がかかるというか、有無を言わさないような、圧力を与えてるような印象があったんですね。映画の中のシゲは私が描くマンガのシゲよりも、すごい威力があるかもしれない(笑)。
――完成した映画『天然コケッコー』を見て、いかがでしたか?
まだ1回しか見てないんですけど、描き手なのでどうしても監督側の目線で見ちゃうんですね。“山下監督は、このシーンをこういうアングルで撮るんだ”とか、たとえば、シゲのアップの秒数を数えてしまいました。私がイメージした時間よりちょっと長かったりして、そこで“やられた! これが山下さんなんだなあ”って感じたり。他には、修学旅行先が決まったシーンとか、マンガだと顔を見せないと状況が判断できないんですけど、映画だとシルエットでわかるんですよ。“いいなあ、映画だとこういう見せ方ができるんだ!”って思ったりしました。そういうところが、おもしろくてしょうがないです。曲も試写で初めて聴きました。一作品としてよかったと思ったのは、翌日になってからですね。作品全体よりも、場面場面の印象が強く残りました。きっと何回か見たときに、一作品としてのひとつの答えが出ると思います。
――くらもち先生のお気に入りは、どのシーンですか?
夏帆さんが印象的なシーン、たとえば廊下でうつ伏せになって寝てるところとか。大沢が高校を変更したのを先生に言いに行くところで、彼はセリフがなくて、「えへへ」って笑うシーンがけっこう好きだったんですよ。あのシーンは、私のマンガの中にはないシーンなんですけど、あとで考えたら、あのかわいさは、岡田くんの素のかわいらしさなんですよ。その魅力が、あの一瞬に出たなと思いました。原作にはなくて、映画になったときに新たに追加されてるシーンがいくつもあるんですが、そういうシーンは新鮮に映ってすごく好きでした。 映画化のお話をいただいた時は、山下監督の作品は『リンダ リンダ リンダ』1本しか見ていませんでした。その後、何本か拝見しましたが、実際、映画が完成してから、山下監督に撮ってもらって本当に良かったと思いました。それにスタッフのみんなが、いい人すぎるんです(笑)。うまく言えないんですけど、あれだけ大勢の人がいて、中には気が合わない人が1人くらいいてもおかしくなさそうなのに、私がいきなり現場に行っても、まるで昔からの友人みたいに接してくれたんですよ。本当、端から端までみんないい方! いい方って安直な表現だけど、他に思いつかないんですよね(笑)。最初に映像化される作品を、この素晴らしいスタッフにお願いしてよかったなあと思いました。良い意味で、みなさん、本気で遊んでくれてましたから。よくぞ、このスタッフの方たちが私の作品を選んでくれた! と思いましたね。
取材・文/都丸優子
©2007「天然コケッコー」製作委員会
©くらもちふさこ/集英社