上原さんのオリジナル曲「シシリアン・ブルー」は、シシリアの街を歩きながら、ふっと生まれた曲だそう。「鼻歌から曲が出来ること、よくあります。この時はすぐに携帯電話を取り出して、鼻歌を録音しました(笑)」
『JAZZ IN THE GARDEN』 スタンリー・クラーク・トリオ/上原ひろみ/レニー・ホワイト ¥2,500(税込)
発売元:ユニバーサル  ミュージック  クラシック&ジャズ

上原ひろみポートレート

上原ひろみ(うえはら・ひろみ)
1979年生まれ。6歳でピアノを始め、17歳でジャズ・ピアノの巨匠チック・コリアと共演、絶賛される。03年、バークレー音楽院在学中に「アナザーマインド」で全米デビュー。以後、世界中からオファーが殺到し、今では年間約150回の公演を行う。近年は、映画やドラマのテーマ曲を手がけるなど、活躍の幅が大きく広がっている。07年、デザイナー三原康裕さんと結婚。N.Y.在住。
公式サイト  http://www.hiromiuehara.com/

THE INTERVIEW 上原ひろみさん

旅から旅の毎日だけど、世界各地に“ホーム”が出来て幸せです。

日本が世界に誇るジャズ・ピアニスト、上原ひろみさん。そんな彼女が、全面参加したジャズの大先輩のニューアルバムのプロモーションで里帰りしました。今年の秋には、自身のソロアルバムも発売予定と、精力的に活動する上原さんに近況を伺います。

 超絶テクニックとくるくる変わる愛くるしい表情が印象的な上原ひろみさん。最近は、絢香さんやドリームズ・カム・トゥルーとのコラボレーションなどで、いわゆる「ジャズ通」だけでなく、幅広いファンの心も鷲づかみにしている、気鋭のジャズ・ピアニストだ。

「一応、私のジャンルは “ジャズ”ですが、本当はジャンルなんてどうでもいいんです。何かを感じる音楽か、そうでないか。重要なのは、それだけですから。自由に楽しんで聴いていただけたらいいな、と思います。ただ、インストロメンタルなので、世界中の人に聴いていただきやすいというメリットはあるかもしれません。本当に旅から旅への毎日で、去年も北欧から南アフリカまで、いろんな街で演奏しました。世界各地に私の演奏を待っていてくれる“ホーム”が出来ていく環境を幸せに思っています。とはいえ、気候や時差に対応するのは大変です! 大げさじゃなく、昨日はダウンジャケットとニット帽、今日はTシャツに短パンなんて感じですもん(笑)。だから、体調管理をしっかりすることも、大切な仕事ですね」

 年間約150本の公演をこなす。世界中の人々が「Hiromi」の躍動的な演奏に元気をもらっているが、不世出の天才の性というべきか、実は自分自身に「合格」を出せる演奏は月に2、3回あればいいほうだという。

「いつだって、昨日よりもっと良い演奏を!と思っているんです。でも、あそこはこうすれば良かったなあ、といった反省が必ずあるんですよね……。“100%満足”は滅多にないです。ちなみに、“合格ライン”には2段階あって、第1段階はお客様が喜んでくれたかどうか。これはもう最低ラインで、常にクリアすべきこと。そして、第2段階は自分さえ、今まで見たことがなかった“絶景ポイント”を探し当てたかどうか、なんです。毎回、自分なりにいろんなトライを重ねているつもりですが、たとえば、演奏を山登りにたとえると、時々、こんな景色は今まで見たことがなかった、なんてすごい景色なんだろう……と全身で感じる瞬間があるんですね。そんな演奏ができて、初めて自分に合格を出せるんです」

「滅多にない合格」を出せた日は、とっておきのご褒美として「登別温泉の入浴剤」を入れてお風呂に入るそうだ。ささやかなご褒美である。「でも、たまに自分にズルして使っちゃうことも……(笑)」。いたずらっ子のような笑顔で白状する(?)上原さんだった。

 そんな彼女の最新作『JAZZ IN THE GARDEN』は、大先輩のスタンリー・クラークさんのアルバムに、レニー・ホワイトさんと一緒に全面参加したもの。マイルス・デイヴィス、ディズニーの「いつか王子様が」、さらにレッド・ホット・チリペッパーズの曲に日本の「さくらさくら」、上原さんの新曲も2曲収録と、バラエティに富んだ内容になっている。

「それこそ、これまで数えきれないほど“絶景ポイント”を見てきたであろう二人ですから、豊富な引き出しから繰り出されるテクニックと、いぶし銀の演奏に大いに刺激を受けました。音楽を通して、最高の会話を交わすことができて、とても楽しかったです。一人でも多くの方に聴いていただけるといいな、と思っています」

text : Akiko Nakazawa