野中 柊『このベッドのうえ』スペシャルインタビュー

野中柊(のなか・ひいらぎ)
1964年生まれ。立教大学卒業後、渡米。ニューヨーク州在住中の91年、「ヨモギ・アイス」で海燕新人文学賞を受賞してデビュー。 小説『小春日和』『ダリア』(集英社文庫)、『あなたのそばで』(文藝春秋)、『きみの歌が聞きたい』『祝福』(角川書店)、 童話「パンダのポンポン」シリーズ(理論社)など、著書多数。
野中 柊 スペシャルインタビュー
1.非日常の世界へ誘われるように……
2.不確かだからこそ、人生も恋も美しい

このベッドのうえ
野中 柊 著
集英社 刊
¥1365(税込)
ISBN:978-4-08-774846-8
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1.非日常の世界へ誘われるように……

ふとした空気に春の気配を感じるようになるこの季節、生命が活動の準備を始めるように、人間もだんだんと気持ちが外へ向いていく。外へ出れば当然誰かと出会い、もしかすると何かが始まるかもしれない……。そんな、予感に満ちた季節にぴったりの恋愛小説『このベッドのうえ』が発売された。なごり雪の残る初春から、一年を巡って再び桜散る季節に終わる短編集。四季の風が心を撫でていくような、生命感溢れる瑞々しい八編が収録されている。

恋も生活も自由奔放ないとこの亜由美ちゃんが、好きな人を追って遠い外国へ行った。かつて無邪気に遊び、共に眠った大きなアンティークのベッドを彼女から譲り受けた私は、あの日の不思議な体験を思い出す……。表題作「このベッドのうえ」は意味深なタイトルにも思えますが(笑)、女の子二人のシーンにも少し官能的な要素を感じて、不思議な気持ちになるお話でした。

「少女時代の夢、を描いたのかもしれませんね。天蓋つきの真鍮のベッドでお姫様気分で眠ること、ケーキをワンホール丸ごと食べちゃうこと、素敵なバスルームでアロマオイルの香りのするお風呂に入ること……そして、だれかに恋をして、すべてを捨てて、そのひとのもとへ行ってしまうこと。でも、大人になって、その夢をかなえたときに、胸をよぎる感情は甘いだけのものではなく、微かに苦いものなのではないでしょうか。なぜって、それは、もはや自分は少女ではないのだ、と知る瞬間でしょうから」

そういえば、どのお話にも必ず、さまざまな「お酒」が登場しますね。これには何か理由があるのでしょうか。作品の中での恋愛とお酒の関係とは?

「恋に酔う、ということ。それから、お酒に酔う、ということ。その両方を描きたいと思いました。恋も、アルコールも、私たちを非日常の世界へと誘ってくれるので」

登場人物が料理をしているシーンも多く、鼻先に香ばしさが漂ってくるような描写もとても印象的でした。どのお料理も本当に美味しそうで……。野中さんご自身もお料理がお好きなのですか?

「食いしん坊なので、料理のレシピを読むのが大好きです。その味をあれこれ想像しながら……。
実際に料理をするのも楽しいけれど、もっと上手になりたいですね(笑)」

料理の描写が恋愛小説を読んでいる読者に与える効果みたいなものもあるのでしょうか。

「恋愛をしているとき、私、なにを食べても美味しく感じられるんです。恋しいひとと一緒ならば、高級なお店の、手のかかった料理じゃなくても、駅の立ち食いそばでも! 私にとって、恋をすること、食べることは密接にリンクしているので、恋愛小説の中の、料理の描写も欠かせないものです。快楽の要素のひとつとして、読者の皆さんが、それを楽しんでくださったら嬉しいですね」

野中さんがお書きになる小説は、主人公の女の子たちが話す言葉がとてもきれいで、うっとりと、「女の子」な気分になります。やはり言葉遣いには気をつけていらっしゃるのでしょうか。野中さんもとても丁寧にお話しになりますね。

「私の憧れの女性は、どなたも言葉遣いが、とても丁寧できれいなんですよ。お人柄がうかがわれて、それこそ、私もうっとりしてしまいます。私もあんな女性になりたいなあ、と思うので、日頃から気をつけるようにはしていますが、ついうっかり、乱暴なしゃべり方をしてしまったり……。私の小説の登場人物たちには、美しい言葉の使い手であってほしいと願っています」

撮影/藤田交泰

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