

“今、「バスジャック」がブームである。
一昨年の秋から、じわじわとブーム再燃の兆しはあった。
発端は地方テレビ局のカメラマンが、偶然乗り合わせたバスで起こったバスジャックの模様を収めたビデオだ。”
(表題作より)

三崎亜記、最新短編集。どきりとさせられる話、ほろりとくる話、などバラエティー豊かな7編を収録。

小説すばる新人賞受賞の話題作。たんたんと続く日常の中での、見えない戦争に参加する“僕”。
デビュー作『となり町戦争』で読者を魅了し、早くも人気作家の仲間入りをした三崎亜記さん。現実からちょっとだけ違うルールの日常へとスリップしたような不思議な感覚は一度読んだらクセになりそう。そんな三崎さんの新刊が早くも登場。バラエティーに富んだ短篇集だ。『となり町戦争』調の不条理ものから、心温まるファンタジー、ロマンティックかつ変則的なラブストーリーなどなど、ユニークな発想の作品ばかり。こんな作品集を書いた三崎亜記さんって、いったいどんな人?
――表題作「バスジャック」ではバスジャックがブーム(!)という設定です。しかも、バスジャックには厳密なルールというか作法が決まっていて、それが妙に説得力がありました。日常からちょっとズレた感覚が面白かったです。何か思いつかれたきっかけはあったんですか?
「『となり町戦争』が出てから、取材で月に1回くらい飛行機で東京に出てきていたんですよ。ちょうど手荷物検査がどんどん厳しくなってきた時期だったんですが、そのとき、持ち込み禁止の物品のなかに「マヨネーズ」って書いてあったらどうだろう? と考えるようになったんです」
――マヨネーズですか(笑)。
「それから発展して、バスに乗るときにまで手荷物検査が厳しくなったらどうしようと思ったんです。検査で1時間待たされるとか……。そんなことを考えたのがきっかけですね」
――それぞれの作品の長さが、短いもので数ページ、長いもので数十ページとバラバラです。短篇集としては珍しいと思うのですが。
「まず題材があって、それをやっつけるにはどの長さがいいか、というところから長さを決めるので、最初からこれくらいの長さで書こうとは思っていません。「送りの夏」なんか、最初は80枚といっていて、130枚書いちゃいましたから(笑)。
今回の本では、小説家になって初めての短篇集なんで、小説家としていろいろな冒険をしたいと思いました。様々な書き方を試したかったので、一人称のものもあれば三人称もある。主人公が男性のものもあれば女性のものもあります。どんなかたちの小説を書けるのかを、とりあえず読者に見てもらおうという部分が強いですね」
――「二人の記憶」は一風変わったラブストーリーですね。恋人同士の記憶がどんどん食い違っていく。ミステリアスで、少し切ない。
「恋人同士の会話の中でチグハグな部分が出てきてしまうことってよくありますよね。同じところに遊びに行っても、違う見方をしている。それで少し寂しく感じたりすることはあると思うんです。それを発展させて、いっしょにいて同じものを見ているはずなのに、まったく違うものを見ているようにしか感じられなくなったら、二人はどうなるんだろう。そこから考えた小説です」
――「雨降る夜に」では、雨の日に、主人公の男性の部屋に見知らぬ女の子が本を借りにきます。そんなありえないシチュエーションを主人公は意外と自然に受け入れますね。
「私の小説の主人公は、不条理な状況をまず受け入れるんですよ。受け入れたうえで、悩みつつ、その現実をきちんと受け止めていこうとする。それは目の前の人間を深く受け入れようとしているのかもしれないし、逆に、そこまで深く考えないで、とりあえず、目の前にいるから受け止めちまえっていうところもあるかもしれない。書き分けはなかなかうまくできないんですけど、自分でも、日常の中におかしなものがまぎれこんできても受け止めてしまうだろうというところがあるんですよ。じゃあ、そこからどうなるんだろう、というところを書いてみたいですね」
取材・文/タカザワケンジ