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今年はさほどの暑さもなく、季節は秋に入ったようである。
毎朝、日課になっているコタロウとの散歩に出かけても、行き交う人のほとんどは長袖か、半袖の上にカーディガンを羽織っている。
川原の先でしゃがみこみ、水に触れても冷んやりとして、「秋だなあ」とつぶやくと、コタロウもかすかにうなずく。
もう半年近く、一緒にいるのはコタロウだけなので、言葉は交わせなくても、心の中はわかるようである。
九時過ぎ、散歩から戻ってきてビールを飲み、帰りの途中、コンビニで買ってきたサンドウィッチを食べてから、自分の部屋に戻る。
「さあ、なにをしようか」
思わず心の中でつぶやくが、なにもすることがないことはわかっている。
そのまま椅子に座ってあたりを見回すと、書棚に本があふれて、一部は横積みに重ねられている。
「たまには、整理しようか」
ゆっくりと立ち上がり、改めて書棚を見ると、今は不要な本ばかりである。
さまざまな広告や宣伝関係の本、そして出版社の社史など、最後に出版関係の部署の役員をしていたので集めたものだが、退職した今は読むこともない。
他に小説やエッセイ、美術全集などもあるが、こちらはまた、ときに目を通すこともあるかもしれない。
ともかく、さし当り不要になったものだけでも集めて捨てるか。いや、売りに出してもいいかもしれない。
威一郎は浴室の横の物置部屋から、ダンボール箱を二個持ってきて本を積み込んでみる。
ほどほどの大きさの箱を持ってきたのだが、本がぎっしり詰ると、結構重そうである。
こんなとき、息子でもいれば、運んでくれるだろうに、今は誰もいない。
仕方なく自分で玄関まで運ぶことにして、一旦、しゃがみこみ、そこで気合を入れて、「よいしょ」と持ち上げる。
瞬間、腰の中程に激痛が走り、そのまま床に倒れこむ。
「なんだ……」
自分でもなにがおきたのか、よくわからないが、腰が抜けたように動かない。
「おいおい……」
こんなことになったのは初めてである。
そのまま腰の下の痛い部分を触ってみるが、とくに変ったことはない。
「どうしたんだ?」
自分で自分にききながら、体をゆっくり横向きにした途端、再び激痛が走る。
「いてえっ……」
まるで、神経がいきなり引き裂かれたような痛みである。
「ちくしょう」
そのまま横向きに倒れていると、異変を知ったのか、コタロウが駆けつけてくる。
今は犬でも、側にいてくれるだけで心強い。
「痛くてな……」
思わず訴えると、コタロウは「どうしたの?」というように頭から足先、そして腰のあたりへ鼻を押しつけ、首のあたりを舐めてくれる。
まさに、地獄に仏とはこのことである。
「ありがとう……」
威一郎はそれに励まされて、ゆっくりうつ伏せになり、そこから四つん這いの形でそろそろと腰を浮かすと、また激痛が走る。
どうやら、ぎっくり腰のようである。
威一郎は初めてだが、以前、これにかかった先輩からきいた状況とよく似ている。
「よし、とにかくベッドまで行くからな」
心配そうに、そわそわと動き回るコタロウにつぶやき、今一度ゆっくりと起き上がり、前屈みのまま、辛うじてベッドまでたどりつく。
シャツを着てズボンをはいているが、今は脱ぐのも辛い。ともかくベッドにもぐりこみ、仰向けに寝ようとすると、また激痛が走る。
「だめだ……」
今はとにかく、楽な姿勢で休むよりなさそうである。
そのまま徐々に体を横にして、膝を軽く曲げると、いくらか痛みはおさまったようである。
なおも心配そうに、ベッドの上まであがってきて、手足を舐めようとするコタロウにささやく。
「しばらく休むからな、大丈夫だ」
それにしても、ぎっくり腰は重いものなどを突然、持ち上げた瞬間になる、ときいてはいたが、たかだか本が入ったダンボール箱一つである。たしかに持った瞬間、重いとは感じたが、あの程度のものは、これまでも持ち上げていた。
それが呆気なく倒れるとは、やはり年齢なのか。
「まさか……」
まだ、そうとは思いたくない。いや、たまたま持ち上げかたが悪かったからで、体が弱ったわけではない。
いろいろ自分にいいきかせるが、現実に腰が痛くてベッドに横たわっていることは、まぎれもない事実である。
「このまま、休んでいることになるのか……」
これでは外出することも、食事をすることもできそうもない。いや、それどころか、風呂に入ることも、トイレに行くのも大変かもしれない。
「どうする……」
考えるうちに、次第に不安になる。
「一人だからな……」
とにかく今の状態では、側に妻も子供もいない。そしてこのまま黙っていたら、誰も訪れてこない。
「そして、俺はただ乾涸びて……」
威一郎は慌てて、首を横に振る。
「そんな馬鹿な」
思わず上体を起こしかけたとき、また腰に激痛が走って、ベッドにうずくまる。
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