遼太郎はりおにすてきなドラマを
あげるために存在しているんです
バスケ部に所属する中学生・りおが、バスケを通じて子供のころに結婚の約束をした男の子・遼太郎(りょうたろう)と再会。2人の思いが通じたかと思えば、また障害が現れて……という繰り返しにやきもきさせられながらも、バスケに汗を流す爽やかな青春ライフは読者のあこがれや共感を呼んだ。
「この連載が始まった1983年ごろから、少しずつ『りぼん』の読者層が若くなっていったんだと思います。それまでは小椋冬美さんが描かれるような大人っぽい作品が目立っていて、職業をテーマにした作品や大学生、高校生をメインにしたスタイリッシュな学園モノが多かったんです。それが『ときめきトゥナイト』や私の連載が始まって、中学生を主人公にしたまんがが増えていましたから」
こうして始まった連載の主人公は、当時の読者にとって等身大な女の子・りお。
バスケと遼太郎にかける思いは誰にも負けないが、それ以外は特に秀でた部分があるわけではない。にもかかわらず、モテるのだ! バスケ部の森村(もりむら)先輩、強化合宿で出会った男子中学生、高校の後輩・大石(おおいし)、転校生の縞(しま)……。遼太郎以外にも常に誰かに思いを寄せられている状態に。
「当時、描きながら悩んでいたんですが、りおがどうしてモテるのか、“これだ!”という理由が言えなくて。でも、“こういう立ち振る舞いができれば必ずモテる!”というものでもないし、とりたてて美人だったり、魅力的なわけではないけどモテるという人もいるし。りおもそういう人なんだと思っていただければいいかなと(笑)」
では、りおの運命の人である遼太郎。バスケの天才で、まっすぐにりおだけを見つめていながら、時々それをうまく表現できない不器用なところもある男の子。彼のキャラクターはどのような思いで作られたものなのだろう。
「私、ものすごい男ギライだったんですよ(笑)。だから理想の男性がいなくて。“男の人ってどうやって描いたらいいんでしょう?”って編集さんやまんが家の先輩方に聞いたんです。そしたら、リアルに自分が好きなタイプの男の子を描いてもいいし、女の子が冷たくされても追いかけたくなる男の子を描くのもいい。あとは“これを言ってほしい!”と思ったセリフを必ず返してくれる男の子にするという描き方もあると教えていただいて。
“冷たくされても追いかけたくなる男の子”というのは、くらもちふさこさんが得意でしたよね。私はそういう男の子が描きたくても描けなかったので、希望の通りのセリフを返してくれる男の子を描くことにしたんです。『月の夜 星の朝』に出てくる男の子は、遼太郎以外もみんなそういうタイプですね」
とは言っても、遼太郎は突然別れを告げたり、アメリカに行くことを決めてしまったり、りおにとって都合のいいことだけを言ってくれるわけではないようにも思えるが……。
「それもりおが期待しているんですよ(笑)。りおって、すごく貪欲な子なんです。喜びたい、幸せになりたいという気持ちもあるけれど、傷つきたい、悲しみたいとも思っている。できるだけいろいろなことを経験したい子なんです。つまり、遼太郎がりおを傷つけるような行動をするときは、りおがそう願っているから! だから、遼太郎のキャラクターってはっきりとは決まっていなくて、りおの行動や発言があって始めてどう動くかが決まるんです。遼太郎だけではなく『月の夜 星の朝』に出てくる男の子たちは、りおにすてきなドラマをあげるために存在していると言えます」
“あったらいいな”が起こる
小さな奇跡をたくさん描きたかった
それまでもスポーツを題材にしたまんがはあったし、少年まんがであればバスケが出てくる作品も珍しくない。少女まんがでも、主人公がバスケ部所属という設定の作品はあっただろう。けれども『月の夜 星の朝』のように、バスケシーンが効果的かつ印象的に描かれているまんがはそうそうない。そのため、作品自体のテーマはりおと遼太郎の恋愛でありながら、
“『月の夜 星の朝』といえばバスケまんが!”と記憶している人も多いのでは?
「この作品を立ち上げるときの担当さんが、自分の経験をそのまま描いてもらえればいいとおっしゃったので、自分が中高生のときにやっていて、好きなスポーツであるバスケを要素として入れてみたんです。バスケって、ネットを挟んで戦うのでも、孤独に記録と戦うのでもなくて、敵味方交ざりあいながら、選手同士がぶつかりあって戦うところがおもしろいんですよね。
芸能界とか遼太郎の家族問題とか、いろいろなエピソードが現れては消えていきましたが、
余計なものがなくなっていく中で、バスケだけは物語の芯として残りましたね」
りおをはじめ、このまんがの主要な登場人物たちは、出会う人に自分の気持ちを正々堂々とぶつけて、わかりあっていく。その生き方はまさにバスケットボールそのもの! その重なりこそ、この作品がバスケまんがと記憶される理由に思われる。
「いただいたファンレターで、このまんがを読んでバスケを始めたという方もいて、それはすごーくうれしかったですね」
このまんがを通じて、本田さんが描きたかったのは“小さな奇跡”なのだとか。
「大きな努力をしたわけでもないのに、お話がどんどんいいほうに進むと“ご都合主義だ!”って怒る方もいるかもしれないですけど、現実でも、一生懸命願っていたら思いが叶ってしまったり、偶然が起きることってあるじゃないですか? そういう
小さな奇跡をたくさん描きたかったんですね。ストーリーの展開に詰まって、苦し紛れに都合のいい要素を入れるのはダメですけど、私は
“あったらいいな”という方向に物語を運ぶスタンスで描いていきたかったんです」
平凡な女の子であるりおが、日々を精いっぱい楽しんで生きていくことで、運命的な恋愛をして、男のコからモテて(笑)、たくさんの小さな奇跡を経験する。
そのストーリーは、まだ恋愛にも人生にも初心者だった読者たちに、すてきな夢と、現実を精いっぱい楽しんで生きるという指南を与えてくれたのではないだろうか。
(取材・文/古川はる香)
*毎週木曜日更新予定
次回は11月6日 本田恵子『月の夜 星の朝』(2)