

ドラマ、映画になり、韓国語版、台湾語版まで出版された『盲導犬クイールの一生』。この本を書いた石黒謙吾さんの初めての短編小説連載が、s-woman.netでスタートします。タイトルは『奏でられた犬』……。どうやら犬と音楽が関わっているようです。しかも、石黒さん自身が写真も撮る、というこの企画。公園での撮影現場におじゃまして、話を聞いてきました。
「えっと、最初は犬の話を考えていたんじゃないんです。自分がこれまで見聞きして“あ、いいな”と思っていた小さな話と、すごく好きで忘れられない音楽の記憶が、まずはあった。それをあわせて物語にしたらどうだろう? ということを考えたら、犬が出てくることでいろんな気持ちが表せるような気がして……。そこから『奏でられた犬』ってタイトルも出てきたんですね」
犬のことが書きたい、ってところからスタートしているんじゃないんですね。
「そう。『盲導犬クイールの一生』がベストセラーになって、かなりインタビューを受けたんですけど、“どうしてこれだけヒットしたんだと思いますか?”って聞かれると“ほとんど犬のことを書いていないからじゃないですか”と答えていたんです。もちろん写真には写っていて、クイールがどうした、ということは書いていますけど、それは最低限で。書いているのは、人の気持ち、人の話ですよね」

ちなみに第一話「裏口にいた犬」で登場する犬は柴犬。音楽は、パッフェルベルのカノンですね。そして主人公は、芸大受験を志して上京し、名曲喫茶で働く“僕”です。実は、かなり石黒さんの自伝的な作品だったりするのでは?
「パッフェルベルのカノンは、僕がまさに名曲喫茶のアルバイトで聴いた、思い出深い曲です。でも、事実のエッセンスを入れているのは2割ぐらいで。約8割は創作ですね。以前『パピーウォーカー』って本で、ドキュメンタリーにフィクションを2割ぐらい混ぜる、ということはやっているんですけど、今回はバランスがまったく違うので……。いや、本当にまったく分からなくて苦労しています(笑)。
今までノンフィクションの仕事はかなりやっているから、ベースがあるんです。例えていうと……。陶器を作るとして、慣れた仕事の場合は、もう粘土はあって、形の作り方も、うわぐすりのかけ方も分かっている。でも、フィクションは初めてで、もう粘土から作ってるみたいな感じですね。難しいです。もちろん、その粘土がこねあがってくる感じとか、本当に勉強になるし、面白いんですけどね」
取材・文/s-woman.net