伊坂幸太郎スペシャルインタビュー 1 自分だけは、死なないんじゃないか 2 「消費税とか、ぴんとこねぇ」…… 3 死んだら負け、なんだろうか? 4 失礼だけど、本当に失礼だけど……
「終末のフール」 「終末のフール」

伊坂幸太郎・著/集英社・刊
\1470

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プロフィール いさか・こうたろう

1971年生まれ。『オーデュボンの祈り』でデビュー。『アヒルと鴨のコインロッカー』で第25回吉川英治文学新人賞を受賞。著書に『重力ピエロ』『グラスホッパー』『死神の精度』『魔王』『砂漠』などがある。『陽気なギャングが地球を回す』が映画化され、5月より全国ロードショー公開。

伊坂幸太郎「終末のフール」インタビュー 1

4 失礼だけど、本当に失礼だけど……

――『鋼鉄のウール』は、“超合筋”の異名を持つキックボクサーの武田幸三さんと、彼の師である治政館の長江国政館長、そして武田さんのオフィシャル・フォトグラファーである藤里一郎さんに取材することから生まれた作品ですね。小説『砂漠』に出てくるキックボクシングの描写にも、その取材が生かされていますが、『鋼鉄のウール』に、より色濃く彼らのキャラクターが出ているように思います。

「最初は『砂漠』のほうに武田さんを…と思っていたんですが、こっちに書きたくなったんですね。それで同じものを書くとダブっちゃうので、あっちはもう武田さんがモデルじゃないです。“阿部薫”という名前を、ある意味強引につけて」

――フリー・ジャズの、伝説的なアルト・サックス奏者ですね(1978年、29歳で夭折。代表作に『なしくずしの死』など)。伊坂さんの作品には、ローランド・カーク、ミシェル・ペルトリチアーニなどジャズミュージシャンの音楽が印象的に登場します。『砂漠』ではサンボマスター山口さん節で語る登場人物も出てきました。

『鋼鉄のウール』のキックボクサーが「苗場」で、対戦相手が「富士岡」ですが、これって“苗場スキー場”で“FUJI ROCK FESTIVAL”をかけていたりはするんでしょうか?

「かけてないです(苦笑)。偶然です。

実はこの小説の中でも『鋼鉄のウール』はすごく気にいっている作品なんです。どうして気にいっているのかな? と考えていたんですが。結局、僕とかは、頭で仕事をしているので、理屈なんですよね。でも、ああいう格闘家って、理屈じゃない。小説でも書きましたけれど、本当に失礼を承知で言えば、馬鹿なんじゃないの? みたいな感じの……」

――作品では「本当に失礼だけど」「いや、本当に失礼だけれど」と繰り返されていましたね(笑)。

「いや、本当にそこに悪気は無くて、誉め言葉として使ってるので。でも、そう思うことってあるじゃないですか。“こんなに運動して、俺、馬鹿じゃないの”って。でも、そこが僕はすごく好きというか、感動するんですよね。実際、世界が終わりなのに走ったりサンドバッグ叩いたりしているかは分からないですけども、でもやっぱり、何かしらの運動してるんじゃないかな、と。

それはほんとうに根源的な、人間が生きるってことじゃないですか。頭の理屈で文字を書いている僕なんかよりも。そうしたことへの憧れや感動があるんですよね。叩く、走る。それだけ、という魅力」

――今って、「これは意味がある」「これは無意味」、「こっちは得」「こっちは損」って、すごく理詰めで計算してるところがありますよね。みんな頭がいいつもりなんだけど、じゃあ、それが本当の本当に意味があるの? と言われれば、どうなのかな、って。

「そうなんですよ。それが、この“終末”になったら本当に見えてくるはずだし。

いまインターネットで情報がいくらでも手に入るし、理論武装もできる。検索すれば、情報は出てくる。でも、たとえば、歯を食いしばって死ぬほど腕立て伏せをするというのは、簡単にできるものじゃない。それは、強いと思うんですよね。

世界の終わりに、検索したってしょうがないわけじゃないですか。“世界”“終わり”“生き延び方”ってキーワードを入れて、検索しても仕方ない。とはいえ、僕自身は検索しちゃうタイプなんですよね(笑)。検索派なんですよ。理詰めでやる仕事ですし、小ざかしいです。だから、その悲しさというのを、すごく感じちゃうんです」

――武田幸三のオフィシャル・フォトグラファーであり、伊坂さんの『死神の精度』の写真も手がけている藤里一郎さんが、小説では女性の写真家・三島愛として登場します。彼の語り口やエピソードを、小説にかなりダイレクトに生かされていましたね。藤里さんが「あんなに他人の話を聞く人は初めてだ」とおっしゃっていました。「人の話を聞く」というのは、お父さんの教えだ、と聞いたのですが?

「あんまり意識はしていなかったんですが、確かに、『自分の話をするな、人の話を聞け』とはよく言われましたね。やっぱり僕もそうだけど、みんな自分の話をしたいし、話を聞いてもらいたがってるから、よく聞け、と。あと『絶対に自慢話はするな、自慢話ほどつまらないものはない』とも同時に言われて。

ただ、それを僕はずっと『自慢話と悪口はつまらないからするな』と言われたと覚えていていたんですが、つい最近、父に聞いたら、『いや、悪口は盛り上がるんだよ!』とか高らかに主張していましたね。何だよそれ、と思いつつも、確かに悪口は盛り上がるような気はします(笑)」

撮影/大橋愛 取材・文/s-woman.net編集部

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