1971年生まれ。『オーデュボンの祈り』でデビュー。『アヒルと鴨のコインロッカー』で第25回吉川英治文学新人賞を受賞。著書に『重力ピエロ』『グラスホッパー』『死神の精度』『魔王』『砂漠』などがある。『陽気なギャングが地球を回す』が映画化され、5月より全国ロードショー公開。
隕石が落ちてきて、人類は滅亡する……。
『陽気なギャングが地球を回す』が映画化され、『死神の精度』『重力ピエロ』『アヒルと鴨のコインロッカー』などの作品で多くの読者を魅了する伊坂幸太郎。彼の最新作は、“地球に隕石が落ちてくる”という、どこかの映画やアニメで見たことがあるような設定で描かれる。
いったいどんなパニックが? どんなスーパーヒーローが隕石に立ち向かうのか!?
と、思わず想像してしまう人も多いと思うんだけど、実はこの小説では、そうしたことは描かれない。「終末のフール」「太陽のシール」「籠城のビール」「冬眠のガール」「鋼鉄のウール」「天体のヨール」「演劇のオール」「深海のポール」。8つの短編を通じて描かれるのは、パニックが起こるだけ起きて一段落、治安もかなり回復した仙台で、生き残った人々の様子だ。
――やられました。パニックのど真ん中ではなくて、隕石衝突の3年前の、なぎの状態を描くという設定が、ユニークですね。
「そうですか! そこは僕にとって一番のキモなんですよね。パニック映画や世界の終わりを描く作品はたくさんあると思うんですが、そうじゃなくて、あと3年で地球が終わるという、結構微妙な状態を描く。その小康状態を描きたい、というのは強くあって。
いきなりですけど、僕自身も事故にあったりして、明日死ぬかもしれないじゃないですか。そうじゃなくても、いつかは必ず死ぬ。それこそ3年後に死ぬかもしれない。それなのに、今、全然ビクビクしないで普通に生きていますよね。別にパニックに陥ったりもしていないし。それって“3年後に隕石が落ちてくる”というのと、どこか似てると思うんですよ」
――確かに極端な設定のはずなのに、読んでいるとすごく身近に感じるところがあって。「もしかすると隕石は落ちてこないかもしれない」と登場人物が思うシーンがいくつか出てきますけれど、同じように、みんな心のどこかで「自分は死なないかも」と思っているような気がします。
「そうなんですよね。僕自身『明日事故にあうかも』なんて言いながら、『あわないだろう』ってタカをくくっているところがあるし。やっぱりみんな『僕だけは平気なんじゃないか』と思っているところがありますよね。だから、そういう現実世界とつながるところのあるお話なんですが、でも、最長でも3年後には死がやってくる、というのはやっぱり大事な部分なんです」
――いきなり最初からディープな話になってしまうんですが、伊坂さんの作品で「死」はすごく大きなテーマですよね。それが常にテーマになってくるのは、どうしてでしょう?
「それは本当に意識的で。『生きることと死ぬこと以外に大事なテーマが思いつかない』……って丸山健二が言っていたんですけれども、僕が作家になる前に読者としてそれを読んだ時に、実際にそうだなって思ったんですよね。
生活していく上では、いろんなことがあるじゃないですか。恋愛とか仕事とか、他人には小さなことに見えても、本人には大事なこともたくさんあるし。だけど、フィクションで何か作品をつくる時には、生まれてきたことと死ぬこと以上に重要な事柄って、あんまり思いつかない。
でも『死とは何か』ということは僕はまだ、よく分からないから、『死とはこういうものです』というものは書けないんですよね。ただ、やっぱり死ぬということを取り扱わないのは、何か嫌で。せめて、取り扱おうとは思うんです」
――伊坂さんの作品は、『重力ピエロ』の登場人物が『死神の精度』に出てきたり、『陽気なギャングが地球を回す』の事件が『チルドレン』でもとりあげられたりと、相互に関連しあっていますよね。でも、今回の『終末のフール』では、そうしたリンクを見つけられなかったのですが……。
「作っていないですね」
――実は珍しいんじゃないですか?
「初めてじゃないでしょうか。いや、実は、雑誌掲載の時はちょっとやりかけたんですよ。『鋼鉄のウール』に出てくるキックボクシングのジムを、『砂漠』に出てくるジムと同じにしようとしたんですが、やっぱりちょっと無理があって、今回単行本にする時に、削りました。これまでの小説とは違って、今回描いているのは終わっていく世界ですし。だから、まったく別の話という感じですね。
僕は読者として本を読む時も、作家の作った小宇宙を楽しむ、という意識が強いんですね。だから『終末のフール』は、ぎゅっと完結した小宇宙みたいな。
ただ作中作として『ランナウェイ・プリズナー』というテレビドラマを作ったんですが、これは気に入っているので、他の作品でもテレビドラマとして出そうと思っているんです」
撮影/大橋愛 取材・文/s-woman.net編集部
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