池澤夏樹(いけざわ・なつき)
1945年北海道生まれ。1975年より3年間ギリシャに滞在。詩作、評論から作家活動に入る。1988年に発表した『スティル・ライフ』で芥川賞を受賞。『母なる自然のおっぱい』で読売文学賞、『マシアス・ギリの失脚』で谷崎賞を受賞する。1994年沖縄移住。近著に『憲法なんて知らないよ』『イラクの小さな橋を渡って』『静かな大地』『キップをなくして』など。現在はフランスに在住。
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池澤夏樹インタビュー
1 子供も大人も魅きつける『星の王子さま』の魅力とは
2 詩を書くようだった翻訳作業
3 キツネを「apprivoiser(アプリヴォワゼ)」する?
4 空を飛ぶ視線、大地に根ざす視線

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『星の王子さま』

サン テグジュペリ・著/池澤夏樹・訳
単行本:1260円(税込)/文庫:400円(税込)

永遠の名作『星の王子さま』池澤夏樹新訳!砂漠に不時着した飛行士の前に、不思議な金髪の少年が現れ、次第に彼の事情も明らかになる。バラの花との諍いから住んでいた星を去った王子さまは、いくつもの星を巡った後、地球に降り立ったのだ。

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池澤夏樹 スペシャルインタビュー『星の王子さま』

4 空を飛ぶ視線、大地に根ざす視線

翻訳作業を通じて、池澤さん自身の作品の作り方と似ている、と感じる部分はあったのだろうか。

「それはあまりないですね。彼のほうがよっぽど詩人であり、本来の意味でのエッセイストです。エッセイという言葉の成り立ちは、日本語の随筆とは違って、“試す”ということなんです。サン=テックスは、“試みの論”としてのエッセイを書く人だったと思います。僕はフィクション・ライターで、最初にストーリーを作ることを考えますから。『星の王子さま』は、ストーリーはそんなに凝ってないでしょ。王子さまが旅をして、地球に降りて、帰っていく。途中にいろいろ出会いがある。ストーリーは、その出会いのひとつひとつをはめこむためのフレームでしかない。僕だとそこをもっとふくらまして、単なるフレームではないものにしてしまうでしょうね」

それではサンテグジュペリという作家に、共感する部分は?

「それはありますね。男の子の飛行機好きというのもあるし(笑)、職業を持ってから作家になる、職業を通して文学を産むということも、順序正しいと思います。それと、これは開拓のお話でしょう。『夜間飛行』や『人間の大地』も、平和主義的な開拓ですよね。その冒険に魅かれるところもあります。冒険を描きながら、単なる面白おかしい話ではなく、その中から一種の倫理を引き出す。『夜間飛行』のリヴィエールのように。ヒューマニズムの裏づけができて、そこで初めて文学になる。そこまでは“読み物”だけど、その先で“文学”になる。彼の作品を読んでいると、それがよくわかる。そこが面白いですね。やっぱりずいぶん好きな作家ですよ」

「サン=テックスの『戦う操縦士』は偵察飛行に飛び立ち、爆撃をくぐりぬけてかろうじて帰ってくる話ですが、ここでは、偵察機で上から見る地上の風景が描かれます。同時に、そこに住む人のことを縷々と語るんですよ。上空から見た大地、その大地に人の営みがこう刻まれているということを、ひとつひとつ書いていく。こういう男がいる、こういう農夫がいる、ベルベル族がいる……と。サン=テックスは、上から見る視線と、地上に降りる視線の両方を持っている。それが、パイロットが文学者になる秘訣だと思います。ところが今の戦争では、見ないでしょう。巡航ミサイルは何も見ない。だからいくらでも人が殺せてしまう。そういう意味で、今の時代にも読まれるべき作家だと思います」

「『星の王子さま』は、これからも読みつがれていく本でしょう。だけどずっと彼の本を読んできて、あらためて『星の王子さま』を読むと、いかにも彼が追い詰められた、って気がしてね……。一生懸命元気を出して、積極的に意味のあることを伝えようとするんだけど、意気軒昂な面が少ない。半分、あの世に足を踏み入れてるような、あぁ、追い詰められたな、という……。それが一種の色を添えているんだけど、なかなか悲しいことですよね」

『星の王子さま』は、なぜこんなにも私たちの胸をうつのだろう。その秘密は、この小さな本の中に隠されている。これからもずっと、何度も何度も、読むたびに深く、私たちの心に語りかけてくれるだろう。

取材・文/石川敦子
撮影/藤里一郎

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