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餃子特急
02 大陸からつながる長い道の終点は新宿だった
 新宿に「大陸」という店がある。
 老舗であり、餃子といえば「大陸」と思い浮かべる人もいるぐらいよく知られている店だ。
 今回行くまでぼくは知らなかったが、同行のI氏は昔行ったことがあるという話だった。
 靖国通りから歌舞伎町に入って行く玄関ともいえる角のビルに「大陸」。
 混沌とした新宿界隈を象徴するような良い組み合わせだ。
 とはいえ、現在の新宿歌舞伎町は、思われているほどには、少なくとも自分が思っていたほどには、猥雑でも混沌でもなかった。
 いや、たしかに杉並あたりの商店街にしたら比較しようもないぐらい猥雑で混沌で危険だし、いかがわしい店はもちろん沢山あるし、うさん臭い呼び込みのおっさんやにーちゃんも次々に現れる。けれど、ひとりで歩くには勇気がいるかといえばそんなことはまったくなくて、歩いている人々も、若い女の子同士やカップルが多くて、爽やかとさえいえるのだった。少し意外というか拍子抜けしたぐらい。
 東京に育った人の多くにはたぶん、新宿にはある一定の量の思い出があるような気がする。
 ぼくにもある。
 まず、高校生の頃は、恥ずかしいほどストレートにアルタ前で待ち合わせて彼女とよく映画を観に行っていた。映画はデートだけでなく、学校をさぼって朝イチの回もよく観に行った。
 ディスコに初めて行ったのも新宿で、高1の時だった。
 大学になるとマニアックなレコード屋に通っていたし、ライブハウスやクラブにも毎週のように行っていた。
 こうやって書くとまるで70年代の話みたいでおっさんの思い出話そのものだけれど、ぼくが高校〜大学時代を送ったのは80年代の最後から90年代にかけてです。
 そういう青春のかけらのようなものを感じながら、「大陸」のビルのエレベーターに乗り込んだ。
 店はおそらく一度は改装されたようで、古びた感じは全くない。
 メニューをもらうなり即注文。
 ぼくたちが注文するものは餃子と最初から決まっている。
 ただ、メニューにはレギュラー餃子以外に特製なるものもある。
 うーむ、特製。こういう場合えてしてレギュラーの「なんでもなさ」が、結局最後に残る強さを持っている場合が多い。しかし、だからといって、無視もできない。
 どう違うのか一応店の人に聞いてみた。
 「特製には貝柱などが入っているんですよ」とのこと。
 なるほど。それはまた一段と風味も増すだろうな。
 うんうん。両方ください。
 果たして餃子はやってきた。
 見た目にはごく優しいかんじの餃子。高らかに個性を主張する部分はない。誰が思い描く餃子像からもはみ出すことのないその佇まいに、定番とはつまりこういうことなのかもしれないな、と思った。
 ではいただきます。
 味も優しい。いくつでも食べられるとはよく使われる表現だけれど、クセがなくてあっさりで、いくつでも食べられそうだ。
 ジュワーッと口中に肉汁あふれんばかりというわけでもスパイス際立つというわけでもなく、どこかフワリとしたあくまでも淡々とした餃子。
 「大陸」という壮大なイメージからしたらもっと何かこう強烈なものが出てきそうなものだが、実に実にシンプルだ。
 しかし、そこでふと思った。
 いや待てよ。大陸の壮大さというのはつまるところ優しさなんじゃないか。と。
 優しいからこそ多くの人が餃子といえば「大陸」と思い浮かべる結果に繋がるのじゃないか。
 そうか、そういうことか。
 けっして何かを強く主張するわけではなく、シンプルで淡々と変わらない強さ。老舗には老舗の理由があるのだった。
 何はともあれ今日もやっぱり餃子はうまい。

旅はつづく
(次回更新は3月17日を予定しています。)
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