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2011/11/22

[展覧会]望月通陽さんによる古典新訳文庫の表紙原画展、開催中です。

今展を企画したのは、善福寺公園に面した一軒家ギャラリー、葉月ホールハウスの岩河悦子さん。思い出深いピアノがこの家に戻ってきたことを機に、自宅を改装して演奏会や展覧会を開けるスペースをつくるにあたり、望月さんにペン画のロゴマークをお願いした。

望月さんが、作品に絵だけでなく「言葉を染めている」ことに魅かれたという岩河さんは、自身も長く本づくりに関わってきた人。オープンから2年あまり、詩をはじめ文学や本にまつわるイベントや企画展が増えてきて、「天窓の光を浴びてグランドピアノの上に本が並ぶ」光景がますます好きになったそう。

 

 宮本輝さんの全集をはじめ、柳美里さん、池澤夏樹さんなど、深い余韻を残す本の装幀や装画の仕事でも知られる染色家、望月通陽さん。ペン画でカヴァーを手がける光文社の古典新訳文庫は、今年で創刊5周年。これまで刊行された134冊の原画を、第1期と第2期に分けて紹介する展覧会が開かれています。

現在はほぼ毎月2冊ずつの刊行。1週間で原稿を読み、その世界を汲み取って、喚起されたイメージをペンで描き出す。右『永遠平和のために/啓蒙とは何か 他3編』(カント、中山元訳)、中『オンディーヌ』(ジロドゥ、二木麻里訳)。

文庫のカヴァーという小さい上に制約も多い世界で繰り広げられる、旧知のデザイナー、木佐塔一郎氏との二人三脚。「僕の絵はボケ、木佐さんがツッコミ役」と望月さん。タイトル、著者と訳者のレイアウトされる位置や余白のとり方も1冊ごとに違う。

 

「いま、息をしている言葉で」というキャッチフレーズどおり、古典を現代人の心に届きやすい言葉で新たに翻訳し、未来に読み継がれていくものにしたい、という意図でスタートした「古典新訳文庫」。聖書をはじめ、文学に親しみ、その言葉を創作の拠り所としてきた望月さんですが、意外にも、このシリーズの中で旧訳を読んでいたのは数冊だったそう。しかもラインナップされているのは馴染み深い文学だけでなく、哲学や自然科学、まったく門外漢の経済書まで。さぞ難儀されたことと思いきや、たしかに取りつきにくい本はあったけれど、「扉が重いか軽いかで、中に入ってしまえば同じ」といいます。「カントやニーチェであれ、レーニンであれ、著作の中に内蔵されているのは物語。人間は、物語なくして発想できない存在なのではないでしょうか」。

『訴訟』は思い出深い作品のひとつだという。たくさんの登場人物がひしめく狭い世界から受けた圧迫感を表現した。従来『審判』の名で翻訳されてきたカフカの著作を、草稿に忠実に、丘沢静也氏が新訳している。

12月3日までの第1期では、ロシア、フランス、イタリア、ドイツの著者による古典新訳文庫のカヴァー原画80点を展示。写真は『カラマーゾフの兄弟』(ドストエフスキー、亀山郁夫訳)1〜5巻の原画とそのデッサン。

 

 どんな「物語」でも、描かれているのは人間の営み。政治体制の違いなどはあっても、望月さんにとって、国や時代といった背景の小さな異なりは、創作上気になるものではありませんでした。読むうちにイメージが立ち上がってきて、そのイメージと手をつないで歩きながら読み進み、読了するときにはイメージが出来上がるのが常だといいます。登場人物や、その台詞、あるシーンが絵の手がかりになるだけでなく、カフカの『訴訟』のように、物語全体を通じて感じたものを表現する場合も。ジャンルを問わず、いつも必ず内容から喚起されるものがあるところが、まさに「古典の力」。その力に助けられている、という望月さんは、今、毎月送られてくる原稿を読むのが楽しみだといいます。

まず鉛筆で、出来上がったイメージのデッサンを繰り返す。今回はそのデッサンも幾つか原画とともに額装されている。三つの顔が並ぶのは『カラマーゾフの兄弟』の第1巻。創刊時に刊行され、このシリーズの印象を決定づけた1冊。

削った割り箸をペンに、墨汁をつけて描く。フランスのアルシュ紙の粗い目と相まって、カーヴを描く線は独特の表情に。ごく一部を除き、描き始めから終わりまで線がつながった一筆描き。『グランド・ブルテーシュ奇譚』(バルザック、宮下志郎訳)。

 

 寄り添い、溶け合い、その微妙な距離感に、ときに心が波立つような人物像。静かな生命力をたたえた植物、そしてユーモアや悲しみを含んだ動物の顔――。今回の原画展は、ペンによる墨色一色の線描が生み出す、豊かな表情を間近で堪能できる滅多にない機会。デッサンを重ね、ペンで描き終えてからも、思い描いたとおりの線にするために、滲みを削り取ることもあるといいます。一方、多才な創作者の原点というべき染めの仕事では、下絵はほとんど描かないのだそう。今回、ペン画は残念ながら展示のみですが、筒描きによるタペストリーや型染めの額、バッグなどは展示販売しています。こちらもテーマは聖書をはじめ、サン・テグジュペリ、ゲーテ、ヘルマン・ヘッセなど、古典文学の作品世界。絵の周りに言葉が散りばめられた作品もあります。書店ではなくギャラリーで、古典の言葉にめぐり合える今展、ぜひお出かけください。

文庫134冊は第1期、第2期を通じて期間中全冊販売。12月10日から22日までの第2期では、アメリカ、イギリス、その他の国の古典新訳文庫のカヴァー原画54点を展示予定。

タペストリーは39900円から、染額は12600円(小)、16800円(中)。ほかに鋳造ガラスの作品、望月さんのサイン入り画文集やポストカードも。

 

12月10日から始まる第2期では、クリスマスにまつわる歌をモチーフにした型染めの新作を販売予定です。第2期の会期終了後、会場の展示はそのままに、12月23日(金・祝)には望月さんと光文社文芸局長の駒井稔さんのギャラリートーク、24日(土)には望月さんがCDジャケットを手掛けているピアニスト、谷川賢作さんのコンサートも予定されています。この2日間はイベント終了後、望月さんのサイン会も。イベントをご予約のお客様のみの入場となります。


●『望月通陽 光文社古典新訳文庫創刊5周年記念 原画展』
葉月ホールハウス
第1期「カラマーゾフの兄弟」〜12月3日(土)
第2期「おれにはアメリカの歌声が聴こえる」12月10日(土)〜12月22日(木)
12:00〜19:00、月・火曜は休廊、入場無料。下記イベントは有料、要予約。
12月23日(金・祝)ギャラリートーク「古典の森の物語」
入場料2000円 15時開場、16時開演
12月24日(土)クリスマスギャラリーコンサート「聖夜の絵によせて」
入場料3000円 15時開場、16時開演
東京都杉並区善福寺2の30の19
お問い合わせ 電話 03-5310-3546
ホームページ http://hazukihh.com/

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