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美術テーマ担当のバーバラです。そろそろ引越しして、「自分の空間」をきちんと作ってみたい今日この頃……。暮らしのデザインの元祖を求めて、汐留へ。
Vol.7 『アーツ・アンド・クラフツ <イギリス・アメリカ>』展
ひょっとしたら史上初?英国発世界行きの芸術運動
 今回訪ねたのは、パナソニック電工汐留ミュージアム。ここでウィリアム・モリスから始まったアーツ・アンド・クラフツ運動の展開と、そのアメリカへの影響を追う展覧会が、’09年の1月18日まで開かれています。
 とっても個人的な話ですが、バーバラは、ウィリアム・モリスという名前が好きです。特に特徴のない姓と名の組み合わせだけれど、ちょうどいい長さで、落ち着いた音が集まっていて。破裂音がやかましいバーバラには羨ましい限りなのです。

 さて、そんなモリスが先導したアーツ・アンド・クラフツ運動とは、平たく言えば産業革命を経て衰退の一途を辿った手工芸の復権を目指したもの。ヴィクトリア朝の時代にはすでに大量生産された工業製品が流布し、民衆レベルまで広くこれを享受します。しかし、それはあくまでも“安かろう悪かろう”な品々。結果的には、質が低く、美しくない製品が世の中にはびこることとなり、また、機械の普及によって職人はただの労働力とみなされることとなります。手工芸復興への思いと、生活と芸術とを結びつけるモリスの思想は、こうした状況からの大きな揺り戻しとして形づくられたわけです。
 彼の思想の背景には、まず中世がありました。職人たちがいきいきと自らの仕事をこなし、そこで生まれた質の高い製品がそれを享受する人の生活に美と潤いを与える。このサイクルを当時のイギリスでも実現できないものか、というのが、モリスが生涯にわたって取り組むべき課題でありました。
モリス商会のテキスタイルや家具などのイメージ展示。額に入っているのは、シルクでポピーを刺繍したリネン。

モリス商会のテキスタイルや家具などのイメージ展示。額に入っているのは、シルクでポピーを刺繍したリネン。 Crab Tree Farm,Illinois

 モリスが素晴らしいのは、思想家にして、実践者であったこと。彼は1859年に、ラファエル前派の画家たちのモデルを務めていたジェーン・バーデンと結婚し、翌年、「レッドハウス」として知られる新居へ移ります。その愛の巣は、中世的なステンドグラスや壁紙、カーペット、タペストリーなど、徹底した手仕事によるロマンチックな装飾美に満ちており、さしずめ彼が後に発信する美の実験箱。このレッドハウスを手がけた職人集団は、1861年に設立された「モリス・マーシャル・フォークナー商会」(1875年以降は「モリス商会」)のメンバーになり、伝統的な工芸の復権に力を注ぎました。

『受胎告知』(部分) ウィリアム・モリス

『受胎告知』(部分) ウィリアム・モリス 1862年 セピア・鉛筆 William Morris Gallery
線が生々しいステンドグラスの下絵。悩める美少女風のマリア様は、神格化されていない分、リアルと言えばリアル。

 さて、会場でまず目を引いたのは、モリスの直筆によるステンドグラスの下絵です。マリア様の描写がいかにもラファエル前派風で、聖女というよりは恋する乙女という感じが愛らしい。そして有名な壁紙やテキスタイルが登場しますが、バーバラはモリスの植物デザインがあまり好きではありません。今回いいなと思ったものは、ラベルを見るとモリス・マーシャル・フォークナー商会の時代の作。色のコントラストがきつくなく、輪郭線も控えめで素敵でした。

『果物(または柘榴)』(部分) ウィリアム・モリス

『果物(または柘榴)』(部分) ウィリアム・モリス 1866年 木版・色刷り Haslam and Whiteway Ltd. 
地と同系色で植物文が刷られていたり、よく見ると様々な果物の折枝のリピートだったりと芸が細かい。

『むぎなでしこ』(部分) ウィリアム・モリス

『むぎなでしこ』(部分) ウィリアム・モリス 1883年 木版刷り・木綿 Crab Tree Farm,Illinois
内装用のファブリックとして作られたもの。シンプルな手の込み方ではなく、壮麗な印象のある文様構成。



『主の賛歌』 ハーバート・パーシー・ホーン

『主の賛歌』 ハーバート・パーシー・ホーン 1884年頃 木版刷り・綿ベルベット William Morris Gallery
ユーモラスなポーズでトランペットを吹く天使の繰り返しが面白い。茨の朱が画面に落ち着きを与えている。

 1890年代以降になると、モリスの次世代の作家たちが頭角を現し、次々と新たなデザインを発表していきます。モリスの作品に比べれば、彼らのデザインはよりシンプルで軽快。アール・ヌーヴォーにも似た曲線による自由な構成や、単純化されたモチーフの反復など、より現代の感覚に近い印象。また、陶芸や金工の分野においてもアーツ・アンド・クラフツの思想を引き継いだ作家やギルド(工房)が登場し、今見てもモダンな作品を残しています。


『ぶどうの木』 リンジー・フィリップ・バターフィールド   甘エビのヅケと、かぶらとブリのにぎり   金沢の100年以上の歴史を持つ建物の雰囲気を味わえる店

『ぶどうの木』 リンジー・フィリップ・バターフィールド 1896年頃 プリント・シルク Crab Tree Farm,Illinois
浅井忠がデザインしていそうな文様。アール・ヌーヴォー風と北欧風の中間くらいで、かわいい。

アーツ・アンド・クラフツの金工作品

アーツ・アンド・クラフツの金工作品。モダンな造形だが金属の板を延ばして作られていることが伝わってくるところに、手仕事を感じる。デザインを手がけたチャールズ・フランシス・アンズリー・ヴォイジーは建築家。 Crab Tree Farm,Illinois

『ペルシャ風の壺と花』 ウィリアム・ド・モーガン

『ペルシャ風の壺と花』 ウィリアム・ド・モーガン 1890年頃 タイル・パネル The De Morgan Foundation
作者は、メンバーではないもののモリス商会のタイルデザインも手がけた、ド・モーガン。イスラムやイタリア風の作品が多い。

 

『ベッドルームの椅子』 チャールズ・レニー・マッキントッシュ

『ベッドルームの椅子』 チャールズ・レニー・マッキントッシュ 1902年頃 オーク材黒檀風仕上げ Crab Tree Farm,Illinois
岡本太郎より半世紀は早い、“座ることを拒否する椅子”。耐人強度不十分らしいが、芸術品としては一級品。

 「モダン」と言えば、スコットランドのグラスゴーで展開されたアーツ・アンド・クラフツ運動も忘れてはなりません。その中心人物、チャールズ・レニー・マッキントッシュが20世紀に入って手掛けた家具は、どこか民藝的なモリス商会のそれとは異なり、直線を強調したデザイン。このすっきり感は、アール・デコの先取りのようにも思えます。

 こうしてイギリス国内で発展したデザイン運動は、オーストリアや北欧などの工芸に刺激を与えましたが、民主的芸術を求めていたアメリカでも花開きました。ただし、そこは進取の気性に富む新興国。イギリスでは機械が嫌われたのに対し、アメリカでは合理的観点から機械使用も晴れてウェルカムとなりました。それゆえ、加工のしやすさが優先されるためか造形はシンプルなものが多く、代表的な作家、グスタフ・スティックリーのランプなどは武骨なまでにガッチリしており、実用性より耐久性が高そう。一方で、直線的構成が際立つフランク・ロイド・ライトの作品は、マッキントッシュを彷彿とさせるような洗練された美しさがありました。
 また、アメリカでのアーツ・アンド・クラフツの展開として、工芸による女性の職業進出といった社会的なイデオロギーと結びついたところも特筆すべき点です。多くの女性がとりわけ陶芸の分野に進出していったため、作品は繊細な仕上がりのものが中心。板谷波山の作品に似たものもあって、バーバラはしばし陶然としてしまいました。

『卓上ランプ』 グスタフ・スティックリー   『D.マーティン家のドア』 フランク・ロイド・ライト   『壺』ジョージ・プレンティス・ケンドリック

『卓上ランプ』 グスタフ・スティックリー 1902年 オーク材・銅・スラグガラス Crab Tree Farm,Illinois
とにかく大きく、重そう。村の大工さんがよく知らないまま頼まれて作ったランプ、という感じがしませんか。

『D.マーティン家のドア』 フランク・ロイド・ライト 1904年頃 鉛ガラス・釉薬 Private Collection
カッコイイ抽象文様と思いきや、モチーフは花だとか。依頼主の邸宅の建物ごとに変えたというガラスの意匠のひとつ。

『壺』ジョージ・プレンティス・ケンドリック 1900年頃 彩色陶器 Crab Tree Farm,Illinois
蝋細工のような質感を持つ壺。これが、器形といい意匠といい板谷波山にしか見えないのですが、影響関係はある?


 ただ、展示全体を通して見たときにちょっと違和感が生まれます。「メイド・イン・イングランドのは、ちょっと貴族趣味じゃないか?」なんて。実際、モリス商会の手仕事を重ねた商品はかなりの贅沢品ですし、真に民衆から支持されたものでは決してありません。そこに、理念と現実の矛盾がある(これは日本の民藝も同じ)。しかし、それでもなお、モリスの理念は価値を持っていますし、現代世界の工芸のあり方にも受けつがれています。

 さて、こうした生活工芸の展覧会を見ると、ちょっと自分の暮らしに取り入れてみたくなるもの。ミュージアムショップでは、モリスの意匠をプリントしたハンカチが人気だとか。バーバラは、当時の裂を集めて仕服ができないものかと思案してみました。トランペットを吹く天使の布が欲しいけれど、高いのかな……。

『アーツ・アンド・クラフツ 
<イギリス・アメリカ>』

パナソニック電工 汐留ミュージアム
会期:〜’09年1月18日(日)

開館時間:10:00〜18:00(入館は17:30まで)
休館日:月曜(ただし1月12日は開館)、12/27〜1/5
観覧料/当日一般:500円
所在地:東京都港区東新橋1-5-1 
パナソニック電工本社ビル4階 
問い合わせ先:03-5777-8600(ハローダイヤル)
http://panasonic-denko.co.jp/corp/museum/

展覧会オリジナルのハンカチ

展覧会オリジナルのハンカチ(1枚1,200円)。きれいに洗った手を、美しいハンカチで拭く。これこそ生活工芸の極み?



marisol
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