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飛鳥井千砂 スペシャルインタビュー 第18回小説すばる新人賞受賞 『はるがいったら』

「ハルはどう? 元気?」
 話題を変えてみた。ハルとは、まだ両親が離婚する前、行と一緒に住んでいた時に、二人で公園で拾って来た犬のことだ。行が十五歳、私が小学校三年生の時だったので、もう十四歳の老犬だ。昔は、一階が飲食店で二階が住まいで庭も無しという家の構造上、柴犬に似た日本犬の雑種で、決して室内犬ではないのだけれど、仕方なく部屋で飼っていた。(本書より)

Profile
1979年北海道生まれ。現在は通信会社に勤務。「はるがいったら」で第18回小説すばる新人賞を受賞。愛知県在住。
飛鳥井千砂 スペシャルインタビュー
1 ぽっかりと空いた時間で初めて書いた小説
2 日常で感じたことを少しずつかたちに
『はるがいったら』

集英社・刊
¥1365(税込)ご購入はこちら



2 日常で感じたことを少しずつかたちに

飛鳥井さんは、どんな子供でしたか?

「本を読むのは好きだったんですけど、ごく普通の子供でしたね。たぶん、同級生も名前と顔が一致しているかな? くらいの」

小さい頃に読んだ本で印象に残っているものはありますか?

「いちばん印象に残っている本は、ミヒャエル・エンデの『モモ』です。最近、映画化で話題になっている『ナルニア国物語』もすごく好きでしたね」

今はどんな本を読まれますか?

「活字を読むのが好きなので、けっこう、何でも手を出すんですよ。SFとか、そういう特殊なジャンル以外の本は何でも読みますね。最近、よく読むのは現代小説。マンガもよく読みます。浦沢直樹さんの作品とか。一時期、ずっと読んでいたのは岡崎京子さん。今でも好きですね。」

小説を自分でも書いてみたいと思ったのはいつごろからですか?

「『モモ』を読んでいた頃から、なんとなく書きたいという気持ちはあったと思うんですけど、本当に『書こう』と思ったのはこの作品が最初ですね」

ご自身の体験から『はるがいったら』に使われたエピソードはありますか?

「本当に小さなエピソードは使っています。でも、設定やキャラクターの置かれている状況はぜんぶフィクションです」

弟・行(ゆき)と同級生で親友のなっちゃんとの関係は恋愛を回避しているようなところがあるし、姉・園と恋人の関係もストレートな恋愛とは違います。飛鳥井さん自身、いわゆる“ふつう”の王道な恋愛にリアリティーを感じないほうですか?

「どちらかというと、そうですね。純愛、恋愛だけに焦点をあてた作品、そういう世界は、確かにあるとは思うんです。でも映画やドラマでそういうものを見ても、自分はあまりリアリティーを感じられないなあ、と思ったりします。

純愛への憧れはあるんですけど、共感はあまりしたことがないので(笑)。実際に、私の周りにも純愛を経験したことがあるような人がいないんです。“行”的だったり“園”的だったりする人が周りにも多いですね」

周りには冷めている人が多い、と。

「冷めていたり、曲がっていたり(笑)」

たしかに、恋愛の「定型」から外れている人たちがいてもいいんですよね。小説を読んでいて、そんなことも考えました。ところで、ピンク一色に身を包んだちょっとアブないおばさんが出てきますね。「園」は彼女を心の中で「魔女」と呼んでいます。

「“園”のような、自分をしっかり持っていて個性の強い女の人って、もちろん、いい意味で評価もされると思うんですけど、行き過ぎてしまうと、“魔女”的なものになってしまう危うさがあると思うんです。私自身、いろんな人を見ていて、“園”的な人って、自分がもしそうだったらと思うと、けっこう大変だと思うんですよ。でも、ある意味、極めている人という意味で、半分は憧れている部分もある。そういう意味で、“園”のある一面と呼応している登場人物ですね」

一方の“行”は進路で悩んだりしますが、それも人間の成長の過程なんですよね。

「そうですね。できあがっていない人間が最後にはちょっとでも前に進む、ということを書きたかったんだと思います」

これから、どんな小説を書いていきたいと思いますか?

「こういう分野で、ということを決めて書くのはまだまだ技術的にできないと思いますし、日常で感じたことを少しずつかたちにしていきたいです」

取材・文/タカザワケンジ
撮影/藤里一郎

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