

両親が離婚したのは九年前。母親と一緒に出て行った四つ年上の姉の園とは、母親と三人で、ちょくちょく離婚後も食事などしていた。園が短大を卒業して、就職して一人暮らしを始めてからは、二人で食事に行ったり、買い物に行ったり、園のアパートに泊めてもらったりもしている。離れて暮らしていたのでかえって仲良くなったのか、一緒に暮らしていても仲のよい姉弟だったのかはわからないが、とにかく俺達は、多分仲のよい姉弟だった。(本書より)
Profile第18回小説すばる新人賞を受賞した飛鳥井さん。受賞作の『はるがいったら』は、老犬“ハル”を介護する男子高校生の“行(ゆき)”と、デパートガールの姉“園(その)”が主人公。ふたりのそれぞれの視点から、彼らの日常に起こったできごとをさらりと描いた作品。こういうことってあるよね、と共感できる読者も多いはず。生まれてはじめて書いた小説でデビューを果たした新しい才能にインタビューしました!
『はるがいったら』は初めて書かれた小説だそうですね。書こうと思ったきかっけから教えてください。
「たまたま会社を辞めて何もしていなかったときで、ぽっかり時間が空いたんです。時間があったということと、焦燥感ですね。何かしたいな、というのがあって。その結果、小説にたどりついたんです」
時間が空いたときに、小説を書いてみようって、ユニークな発想ですね(笑)。
「そうですか?(笑) 単純に、自分が好きなことがしたかったんです。もともとどちらかというとインドア派なので、長期の旅行に出たりすることは選択肢になくて。習い事も考えたんですけど、具体的に何がしてみたいかと思ったら、何も思い浮かばなかった。いつもしていることは読書だったので、そこから出てきた結果ですね。『小説を書いてみよう』って。なので、ある意味、消去法だったのかもしれません。」
『はるがいったら』は、両親が離婚して別々に暮らしている姉“園(その)”と弟“行(ゆき)”が、それぞれちょっとした問題や事件に遭遇するお話です。登場人物も生き生きと描かれていますが、ストーリーも緻密に練られていると思います。人物とストーリー、どちらを先に思いつかれたんですか?
「弟のキャラクターが先にあって、その子がちょっとずつ成長していく話というのが土台にあって、そこからだんだん話ができていったっていう感じですね」
姉と弟の視点が入れ替わり出てくるという構成もユニークですね。
「最初は弟だけの一人称で書いていたんですが、途中で、その弟に姉がいるという設定に変えたんです。そうしたら、姉のキャラクターも個性的になってきたので、姉のこともだんだん書きたくなってきたんです。弟目線だけで書くよりも、姉の一人称でも書いてみたいと思うようになりました」
タイトルとも関わってきますが、ハルという名前の老犬が出てきますね。弟の行(ゆき)が一人で“介護”しているという設定です。
「犬のハルだけ実在のモデルがいるんです。実際に自宅で介護もしていました。主人公をちょっとだけ特殊な事情のある男の子にしたほうが物語が動きやすいかな、と考えた時に、自分も体験した老犬の介護はどうだろうと思ったんです。犬を介護している高校生の男の子って、ありえないことではないけれど、やっている人は少ない。そういう意味で面白いと思って結び付けたんです」
『はるがいったら』は家族の物語でもあるわけですが、家族についてどう考えていますか?
「育った家に関しても、いま現在の家族にしても、現在進行形なので、結論は出ていないんですが……。いい意味でも悪い意味でも、一生つきまとうものですよね。人間が生きていくうえで、家族に関わったことがない人はいないと思うし、ある意味、一生縛られて生き続けなければいけない。自分のなかの大きなテーマのひとつで、いろいろ考えますけど、なかなか答えは出ないです」
取材・文/タカザワケンジ
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