村山由佳(むらやま・ゆか)
1964年、東京都生まれ。立教大学文学部卒業後、会社勤務などを経て、1993年「天使の卵〜エンジェルス・エッグ」で、第6回小説すばる新人賞を受賞。著書に「翼」「BAD KIDS」「おいしいコーヒーのいれ方」シリーズなど、翻訳書に「ピーボディ先生のりんご」(マドンナ作)がある。
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村山由佳スペシャルインタビュー
第1回 『天使の卵』から10年の時が満ちて
第2回 「恋することのせつなさ」を出血大サービス!!
第3回 だいじょうぶ。季節は約束されている

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村山由佳 直木賞受賞第一作 

「天使の梯子」スペシャルインタビュー
第3回 だいじょうぶ。季節は約束されている
千葉県鴨川の、3000坪の農場に引っ越して1年。この秋には、エッセイにもよく登場する“相方M氏”と2人で食べる、1年分のお米も収穫した。『天使の梯子』は、この農場で書いた初めての作品。そして初めて徹夜をせずに、昼間に書いた小説でもあるそう。昼に起きていないと動物たちの顔を見られない、というのがその理由。恋愛小説を書くのに、田舎でそんなに健やかな生活をしていてだいじょうぶ? という声もあるそうだけど……。
メイプル 12月号より
「都会でめくるめく恋もしないでいいのか、心の闇は描けるのかって(笑)。でもねぇ、物書きなんてもともと、傲慢な人間だと思うんです。小説を書いている時って、ひとつの世界を構築する神みたいな存在ですから、妙に気が大きくなったり、自分が偉くなったような気がすることもある。そういう傾向のある私のような者が、何もかも自分のコントロール下に置けるような都会に住んでいたら、きっと何か間違えちゃうよなぁ、と。農場に住んでいると、動物たちが平常心に引き戻してくれる。賞なんてとろうがとるまいが、こいつらにとっての私の値打ちは変わらない。日々、自然の大きさにきりきり舞いさせられていると、あぁ、自分は何ほどの者ではないな、と思い出させてもらえるんです」

「この間は台風で、せっかくていねいにまいて、やっと芽が出てきた種がみんな流されてしまいました。でもそんなふうに打ちのめされる経験が、日常にあってよかったと思うんです。どんなに一所懸命やっても、ダメなこともある。しょうがない、また種をまけばいいじゃない? だいじょうぶ、あと1年後を見てみよう、と。今年はダメでも、また来年はちゃんと春がくる。季節は絶対に約束されていますから。そういうリズムで暮らせることが、私の背骨になっている気がします。恋愛も、決して自分の思いどおりにはいかない。どんなに好きでも結ばれないこともある。つらくてたまらない時もある。そんな時はただ、時が満ちるのを待つしかない。やみくもに肥料をやっても1日ではトマトが実らないのと同じなのかもしれません」

どん底まで打ちのめされても、季節はまた巡ってくる。夏姫にも、歩太にも。『天使の卵』では決して饒舌ではなかった歩太が、ラストで自分の思いをストレートに語るのも、歩太の中で時が満ちたからなのかもしれない。

「言葉を使って表現することって、私にとってはいつも、色の足りない絵の具で絵を描いているようなもどかしさがあります。言葉って、なんて不完全なんだろう。でも私たちは、なんとかそれを使って、自分の心を伝えるしかない。人と人をつなぐものって、最終的には、どれだけ自分の心を言葉に置き換えて伝えようという努力をするかにかかっていると思うんです。うまく伝えられなくても、言葉が足りなくても、こんなにあなたにわかってもらいたいと思っているんだ、と。そこを伝えられるかどうかが分かれ道じゃないかな」

村山さんが「まるで小津映画のような長回し」と笑う、歩太・一世一代の(?)長ゼリフ。歩太が伝えようとしている、その心に耳を傾けてほしい。

「物語なんて、作りごとじゃないかと言う人もいるかもしれない。だけど、99までがフィクションでも、その作りごとを積み上げていった先に、ひとつの大切な真実が立ち現れることがある。言葉をつみあげていくことで現れる、言葉の響き。読む人の中にある感情の揺れと共鳴関係ができた時、鳥肌の立つような感動が生まれる可能性があると思うんです。そういう小説を書いていきたいですね。つかまえられたかな、と思っても、もっと先に、もっとすごいものがあるような気がして。書くたびに、いつも逃げ水を追いかけているような気がするんです」

『天使の卵』を読んだ人の心の中に、春妃や夏姫や歩太がしっかりと生き続けたように。これから私たちは、自分の年月と共に、また何度もこの『天使の梯子』を味わえるのだろう。

インタビュー・文/石川敦子
カメラ/関 俊也

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