村山由佳(むらやま・ゆか)
1964年、東京都生まれ。立教大学文学部卒業後、会社勤務などを経て、1993年「天使の卵〜エンジェルス・エッグ」で、第6回小説すばる新人賞を受賞。著書に「翼」「BAD KIDS」「おいしいコーヒーのいれ方」シリーズなど、翻訳書に「ピーボディ先生のりんご」(マドンナ作)がある。
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昨年、『星々の舟』で直木賞を受賞した村山由佳さん。それまでとはひと味違う作品だっただけに、受賞後第1作はどんな作品? と楽しみに待っていたファンは多いだろう。そして今回、いよいよ刊行されたのが『天使の梯子』。93年に小説すばる新人賞を受賞し、いまだに多くの読者を魅きつけてやまない、『天使の卵』の続編である。……と聞いただけで、もうウズウズわくわく。あの後、歩太はどうなったの? 夏姫は元気でいるの? 村山さんにたっぷりお話を伺った。
「直木賞を受賞してから1年くらいかけて、次は何を書こうかなぁ、と考えていました。デビューして10年で賞をいただけたことで、ひとつ区切りがついたし、楽になれたんです。今までもずっと好きなものを書いてきたけれど、前にもましてやんちゃができるような気がして。よけいな思いは全部とっぱらって、ある意味ではデビューの時より純粋に、シンプルに、書きたいものを書いてみようと。それが今回の『天使の梯子』でした」
「天使の梯子」とは、厚い雲間から、ひと筋地上に向かってさす光のこと。聖書の逸話がもとになった呼び名だそうだ。
「その言葉を知ったのは、『天使の卵』を書いた翌年でした。その時、もしもいつか『天使の卵』の続編を書く気になったら、タイトルは『天使の梯子』にしよう、と決めたんです。『天使の卵』でどん底に落ちた夏姫や歩太。それでも生きていかなくちゃならない彼らに、天界からさしのべられる、ひと筋の“希望”や“ゆるし”や“浄化”。そんなラストにつなげられる、ぴったりの言葉だと思いました。でも、すぐに続編を書く気にはなれなくて。ずっと忘れてはいなかったけれど、時が満ちるのを待っていました」
その間、『天使の卵』は文庫本でも版を重ね、新たな村山ファンを増やし続けている。続編を書いて! という声もたくさんあっただろう。
「『天使の卵』を入口にして、他の作品にも手を伸ばしてくださる方は多いですね。『○○は僕にはまだ難しかったけれど、何年かたってもう一度読んでみたい』なんていう高校生からのお便りを見ていると、とてもうれしいんです。何年かたって読んだら、全然違う物語として楽しめる……そういう読まれ方をする作品を書きたい、といつも思っていますから。小説って、自分の経験で翻訳して読むものですよね。たとえば家の描写があれば、自分が見たことのある家を思い浮かべる。登場人物も、自分が会ったことのある人をなんとなくあてはめて読む。だからその人の経験値が増えるほど、深いところまで読みとれるものだと思うんです。そのためには、物語自体にも厚みがないと」
物語の中で、夏姫と歩太にも10年の歳月が流れた。登場人物にも、そして村山さんにも流れた歳月は、『天使の梯子』をどんな作品にしているのだろうか。
「今回、『天使の梯子』を書くために『卵』を読み返して、こんなシンプルな話、今じゃもう書けない、と思いました。こわいもの知らずの情熱というか……(笑)。あの時じゃなければ、これは書けなかった。それと同じように、10年書くことを続けてきた、今の自分でなければ書けないものを、もう1度目指してみようと思いました。あえて10年待って書いたことで、夏姫と歩太に流れた年月をリアルに描写できたのではないかと思います」
インタビュー・文/石川敦子
カメラ/関 俊也